資産運用
収益物件を購入する際、投資家が必ずチェックする指標といえば「利回り」ですよね。
かつては、投資判断の重要指標とされていましたが、市況の変化や不動産投資の「儲けの仕組み」が体系化・可視化されてきたことに伴い、参考程度の扱いにとどめる投資家が増えています。
かくいう私自身も、いまでは利回りは検討物件を絞り込むためのフィルタリング程度にしか使っていません。
利回りには、不動産投資の指標として決定的に足りない観点があるからです。
本稿では、そんな利回りについて、実務目線からご説明していきます。
そもそも、不動産投資での「利回り」とは何でしょうか。
一般に、物件価格と、購入時点での賃貸収入、あるいは運営経費を除いた実質的な賃貸収入との関係に着目したシンプルな収益指標と定義され、以下の計算式で表します。
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◆表面利回り(グロス利回り)
〇〇% = 年間満室時家賃÷物件価格×100
◆実質利回り(ネット利回り)
〇〇% = (年間満室時家賃-年間運営経費)÷物件価格×100
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たとえば、利回り10%であれば10年、利回り5%であれば20年で投資金額(≒物件価格)が回収できる目安となります。
実質利回りの「年間運営経費」に明確なルールはありませんが、東京の区分ワンルーム投資では、「建物管理費」「修繕積立金」を引いて計算することが多いようです。(他に、「固定資産税・都市計画税」「集金代行手数料」等を引いて計算することもあります)
ひと昔前には、「表面利回りではなく、実務に近い実質利回りで投資判断することが不動産投資で失敗しないコツである!」といった説明が至るところでなされていました。
しかし、冒頭記載のとおり、いまでは利回りという考え方自体に、投資判断の指標として決定的に足りない観点があると言わざるを得ず、それが本稿でお伝えしたい内容となります。
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利回り計算に決定的に足りない観点① ~売却~
不動産投資がまだニッチな投資だった頃、市場には東京近郊の区分ワンルームでも、表面利回りが10%を超える優良な物件がゴロゴロしていました。
前述のとおり、「利回り10%≒資金回収10年」ですから、何もなければ11年目以降の賃貸収入は全て利益ということです。
この利益水準であれば、毎月の運営経費や多少の退去・家賃下落などを含めても、賃貸収入だけで資金回収の目途は立つでしょうから、利回りは一つの判断指標として有用だったのです。
しかし、収益物件の価格相場が高止まりしている現在の市況では、賃貸収入だけでの資金回収は、熟練の投資家でも困難になりつつあります。
また、価格相場の高止まりは、裏を返せば売却時の値下がりが少ない(あわよくば値上がりが狙える)ということでもあります。
そのため、賃貸収入だけでなく、「売却時の利益」も含めた投資判断の重要性が相対的に高まっているのですが、利回りには売却の概念がありません。
バブル崩壊後、収益物件を含む不動産の価格相場が低迷を続けたことで、「不動産投資では売却益(キャピタルゲイン)ではなく、賃貸益(インカムゲイン)で投資判断すべし」というムードが高まりました。
利回りは、そうした市況にハマった収益指標でしたが、いまでは市況の変化に付いていけなくなっているのです。
不動産投資における、最大リスクの代名詞として「デッドクロス」という言葉があります。
デッドクロスとは、不動産投資における収益計算が、「実際の現金収支<税務上の利益」となって現実の儲け以上に税金が課されてしまう分岐点のことで、対策なしにこれを迎えると、税引き後の利益が大きく減る(最悪はマイナス)という事態に陥ります。
デッドクロスの詳細は本稿では割愛しますが、その要因は「税金」です。
不動産投資を個人で行う場合、賃貸時の利益は「不動産所得」として、売却時の利益は「譲渡所得」として、それぞれ所得税が課税されます。(他に、住民税も課税されます)
以下は、不動産所得が該当する所得税の速算表です。
(所得税速算表) ※国税庁ホームページより
課税対象所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000~1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000~3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000~6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000~8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000~17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000~39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
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平成27年に45%の税率が新設されたことは記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。
上記に加えて令和19年までは復興特別所得税もかかります。
不動産所得の厄介な点として、給与所得等の他所得と合算して税率が決まるルールがあります。
本業で高額な給与収入のあるサラリーマン大家さん・公務員大家さんにとっては、不動産投資自体の規模がまだ小さくとも、高額な税金が発生することもあるのです。
また、譲渡所得には他所得との合算はないものの、収益物件の所有期間により、最大30%もの所得税がかかります。(加えて復興特別所得税も!)
このように、不動産投資の利益に課される税金は高税率なのですが、利回りには税金の概念はありません。
利回りに代わる投資判断の根拠として、こうした売却や税金を含めた計算のシミュレーションが改めて注目されています。
ご自身で研究を重ねるもよし、面倒であれば、シミュレーションをテーマにするセミナーに参加したり、会員制不動産ポータルサイトや書籍の付録等で無料公開されているシミュレーション書式を活用するのもよいでしょう。
これからは投資家それぞれが投資判断スキルを磨くことが、いっそう重要になってくると思います。
・利回りとは、物件価格と、購入時点での賃貸収入の関係に着目したシンプルな収益指標。投資の重要観点である「売却」「税金」が足りない点に注意!
・利回りは参考程度にとどめ、正しい投資判断スキルを身に付けましょう!
FP(ファイナンシャルプランナー)、不動産投資実務家
中川 理
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