資産運用
成功している不動産投資家の方にとって、悩みの筆頭といえば「税金」を挙げる方は少なくありません。特に、サラリーマン大家・公務員大家の方が個人として不動産投資を行う場合、総合課税制度によってその利益(不動産所得)は、本業の給料・賞与等(給与所得)と合算されてしまい、さらに超過累進課税制度による容赦のない高税率が適用されるというWコンボを受けてしまうからです。
一見毎月儲かっているように見えても、確定申告でガッツリ税金を取られてしまい、「納税後の手残りはほとんどなかった」「むしろ赤字になってしまった」というケースも実際に見受けられます。
もちろん、個人でできる節税対策も色々あるのですが、総合課税制度・超過累進課税制度のWコンボが重いことに変わりはありません。そのため、成功している不動産投資家さんほど、抜本的な対策として法人化を検討される傾向にあります。
しかし一言で法人化といっても、その方式には大きく分けて3つのバリエーションがあります。本稿では、不動産投資家の選択肢となり得る、法人化のメリット・デメリットや3つの方式の特徴について、解説します。
不動産投資を法人化する主なメリットとして以下の5つが挙げられます。
・個人と法人の税率差で節税ができる ・個人の所得をコントロールできる ・決算月を自由に決められる ・不動産以外の支出を経費にできる ・損失を10年間繰り越せる |
それぞれのメリットについて、解説します。
個人にかかる所得税の税率は超累進課税率が採用されていることから、5%~45%(※令和19年まで復興特別所得税が課税されますが、省略します)です。一方で、法人の所得にかかる法人税率は23.2%と一律であることから、課税所得金額によっては税率差での節税が見込めます。
【所得税の税率】
課税所得金額の区分 |
税率 |
195万円以下 |
5% |
195万円超~330万円以下 |
10% |
330万円超~695万円以下 |
20% |
695万円超~900万円以下 |
23% |
900万円超~1,800万円以下 |
33% |
1,800万円超~4,000万円以下 |
40% |
4,000万円超 |
45% |
出典:国税庁|所得税の税率
【法人税の税率】
所得金額の区分 | 税率 | |
---|---|---|
資本金1億円以下の法人 | 年800万円以下の部分 | 15% |
年800万円超の部分 | 23.20% | |
上記以外 | 23.20% |
出典:国税庁|法人税の税率
個人であれば、自身に給与を支払う必要がありません。しかし法人化することで、自分に役員報酬を支払うことができるほか、金額も自由に決められます。これはメリットであり、家族を役員とすることで個人の所得増加はもちろん、相続財産の増加も抑えられます。
個人の場合、決算月は12月と決まっていますが、法人化することで決算付きを自由に決められます。春先の入退去が増える時期や、秋口の異動による入退去が多い時期を避けて税務申告を行うように調整可能です。
法人化することで不動産以外の支出を経費計上できます。個人の場合、事業者としての立場と消費者としての立場を分けて考える必要があったものの、法人の場合はそうではありません。法人では全ての行為が事業にあたることから、それらを区別する必要がないためです。そうした性質上、法人化した方が経費の対象となる項目が増えるといえるでしょう。
具体的には、法人から事業主自身に支払った給与や退職金を経費に計上できるほか、個人オーナーが配偶者控除や扶養控除の適用を受けることも可能です。個人でも給与を経費にすることはできますが、一定の要件が求められるため、ハードルは高いと言えるでしょう。(事業専従者であることはもちろん、税務署への届け出が必要となる)また、専従者とした家族は扶養(配偶者控除、扶養控除)から外れてしまう点にも注意が必要です。
法人化することにより、赤字(欠損金)を10年にわたって繰り越せるのもメリットです。(個人の場合は最長で3年)そのため、たとえば初年度で赤字になってしまったとしても、それ以降の任意の事業年度で生じた利益から赤字分を相殺することで、結果として法人税の支払いを減らすことが可能です。
法人化によっていくつかのメリットが得られる一方、デメリットも存在します。ここでは主なデメリットを5つ、取り上げてみました。
・設立コストがかかる ・赤字でも法人住民税の支払いが生じる ・法人の相続対策を講じる必要がある ・法人化直後は融資を受けづらい ・税務調査の対象となりやすい |
法人化するにあたり、法人の設立登記は欠かせません。設立登記にあたっては登記手数料が必要です。また、万が一不動産所有方式の場合、個人から法人への不動産移転に際して譲渡所得税や住民税、不動産取得税がかかることも覚えておきましょう。
法人の場合、不動産賃貸業で思ったような結果が出ず赤字になってしまったとしても、住民税の均等割(最低でも約7万円程度)が生じます。個人であれば、赤字になってしまった場合に所得税や住民税を支払わずに済みますが、法人ではそうもいかない点に注意しましょう。
法人化に伴い、「社会保険料(健康保険・厚生保険)」へ加入しなければなりません。また、給与を支払った場合には個人に支払う保険料と同額を法人で負担する必要があります。法人の負担分に加えて、役員個人の負担分も生じることから、保険料にかかる負担割合は必然的にそれ相応の大きさになるでしょう。なお、個人の場合は常時雇用する従業員が5人未満の場合、社会保険への加入義務はありません。
法人化した直後は実績もなければ信頼も得にくいことから、融資を受けづらい傾向にあるとされます。もちろん、連帯保証品の評価や担保の有無によっても最終的な判断は異なりますが、融資を受けられない恐れがあるといった意識を早期から考え、対策を練っておくと良いでしょう。
個人に比べ、法人は税務調査の対象になりやすいといわれています。また、黒字だけが対象となるわけではなく、赤字であっても調査の対象となるケースもあるので注意が必要です。
法人化の目安に具体的な基準があるわけではありませんが、一般的に所得が1,000万円を超えたあたりが法人化の目安とされています。先にも述べたように個人の場合、所得税に累進課税が採用されているため、所得が増えるほど税金額も上がってしまうのが理由の一つです。また、個人であれば所得税以外にも住民税が課せられます。住民税は所得額に関係なく、所得に対して一律10%の税金が課せられます。
標準税率 | |
---|---|
市町村民税 |
6% |
道府県民税 | 4% |
計 | 10% |
出典:財務省|身近な税
たとえば、所得が1,000万円の場合、所得税と住民税をあわせると43%となります。所得に対して43%の税金が課せられることとなり、その時点でかなりの金額であることがわかるでしょう。一方で、法人化した場合には居住地や年収によって多少の差はあるものの、約35%の税金が課せられることになります。このことからも、所得が1,000万円前後では個人よりも法人での税率の方が安いといえるでしょう。
また、ここでいう「所得1,000万円」は不動産投資のみの所得に限りません、所得税や住民税の課税対象となる所得は他の所得との合算です。そのため、副業等で不動産投資を行っている場合、本業との所得合計が1,000万円を超えるのであれば法人化を検討すべきだといえます。
不動産投資業を法人化しようとする場合、まずは「資産管理会社」「資産保有会社」のどちらかを検討することになります。(※2つの機能を1つの法人に持たせることもできます)
さらに「資産管理会社」は、さらに「管理委託方式」と「サブリース方式」に分けられます。
方式 |
概要 |
|
資産管理会社 |
管理委託方式 |
収益物件の入金確認・送金業務や各種問い合わせ等の対応を自分の法人に外注し、管理手数料を支払う方式のこと |
サブリース方式 |
収益物件を自分の法人に一括で借り上げさせ、サブリース委託費を支払う方式のこと |
|
資産保有会社 |
自分の法人で物件を保有(物件購入・賃貸・売却)する方式 |
さっそく見ていきましょう。
資産管理会社は、「管理委託方式」と「サブリース方式」に分けられるとお伝えしました。それぞれについて解説します。
管理委託方式の場合、収益物件の所有者は個人のままです。(法人ではありません)
収益物件の賃貸借契約は、個人(所有者=賃貸人)と賃借人との間で締結します。その一方で、法人は管理会社として賃貸人と賃借人の間に入ることになります。
法人は賃借人からの入金管理・賃貸人への送金や、各種賃貸運営業務(設備故障や更新・退去の対応など)を個人に代わって行い、その対価として管理手数料を受領します。(法人の業務範囲に明確な決まりはなく、細かい部分はケースバイケースです)
収益物件の所有者である個人は、管理業務を委託した法人に管理手数料を支払いますが、この管理手数料は確定申告で費用計上可能です。不動産所得の圧縮にも繋がることから、節税効果が期待できるでしょう。(個人として管理手数料の資金流出がありますが、流出先は自分の法人であるため、役員報酬などの形で回りまわって個人(自分)に戻すことができます)
もっとも、法人としては管理手数料の売上が新たに生じることになるため、個人・法人を合わせた総額は変わりません。(利益に対しては法人税等が課税されます)
つまり、「資産管理会社」による節税のポイントは利益の圧縮ではなく、個人と法人に対する税率差にあるといっても過言ではないでしょう。
個人の場合、前述した総合課税制度・超過累進課税制度のWコンボによって高税率となりやすい傾向にあります。しかし、法人(中小法人)の場合、その最高税率は個人よりも大幅に低く、利益に対する税率の上がり幅も限定的です。
個人で高税率となるであろう、「本業の給与所得が大きい方」「不動産所得が大きい方」「どちらの所得も大きい方」は、資産管理会社を設立することで、その税率差から、個人・法人トータルでの節税効果を狙えるでしょう。
次に、「資産管理会社(サブリース方式)」についてご紹介します。
基本的な考え方は「資産管理会社(管理委託方式)」と同様で、収益物件の所有者は個人のまま、節税のポイントも個人と法人の税率差です。
この場合、法人は個人との間でサブリース契約を締結することになります。従って、法人としては収益物件の空室や家賃集金の実態によらず、予め取り決めた保証賃料を個人に支払うことになるでしょう。
保証賃料は、賃貸管理の実費相当額に加えて、想定される空室・家賃下落への備えも含めて金額設定することが一般的だといわれています。その一方で、サブリース事業を長期間安定して運営することの難しさは昨今の報道からも既知の通りです。
管理委託方式では、法人の事業リスクはほぼ0でした。しかし、サブリース方式では法人も小さくないリスクを負うことになるため、その点においては管理委託方式よりも高い手数料率(保証賃料)の設定であっても許容される傾向が見受けられます。
当然ですが、資産管理会社に対する管理手数料は、管理委託方式であれ、サブリース方式であれ、その実態に即したものであることが大前提です。
たとえば、管理委託方式であれば、一般的なPM管理会社は概ね家賃の3%~10%程度が相場(契約内容やエリア等によります)ですから、特別な理由なくこのレンジを大きく逸脱した手数料率を設定すれば、税務署から指摘を受ける可能性は高まることでしょう。
当該業務の実態や同業他社の料金相場などを勘案したうえで、税理士などに相談しながら検討していくようにしましょう。
では、「資産保有会社」とはどういった方式でしょうか。
「管理委託会社」と異なり、収益物件の所有者を法人とすることが最大の特徴です。
収益物件の所有者が法人ということは、収益物件の賃貸借契約も、法人(賃貸人)と賃借人との間で締結することになります。
家賃や更新料といった収入は法人の口座で受領し、固定資産税や修繕費などの支出も法人の口座から支払うことになります。
では、不動産投資家である個人はどのように、不動産賃貸業に関与するのでしょうか。
一般的には不動産投資家本人または生計を同一とする家族を役員とし、役員が実務を遂行し、その対価として役員報酬を受け取る形を採ります。
「資産管理会社」では、あくまでも不動産投資業の主体は個人にあり、法人は管理を受託する立場でしたが、「資産保有会社」では、不動産投資業の主体は法人となり、個人は役員として関与する形に収まるというわけです。
ここまで法人化による節税メリットばかりを強調してご説明してきましたが、法人化も良いことばかりではありません。デメリットもあります。
不動産投資の法人化を検討している場合にはメリット・デメリットを理解しましょう。
事務処理・会計処理の実務面では、複式簿記での帳簿付けや会計年度ごとの決算書の作成など、個人にはなかった手間は確実に増えることになります。(外注することもできますが、当然それなりの支出増となります)
また、肝心の節税効果の面でも「本業の給与所得がない方(小さい方)」「不動産所得が小さい方」「どちらの所得も小さい方」などでは、個人と法人の税率差は僅か、場合によっては逆転(法人税の税率の方が高い)こともありますし、法人住民税など利益によらず発生する税金もあります。
こうした側面も知ったうえで、ご自身にとってどの方式が良いのか(そもそも法人化すべきかを含め)、本稿を検討のきっかけにしていただければと思います。
レアルエージェンシーでは、個々に応じた資産形成や資産運用、節税対策の方法をお伝えするマネーセミナーを実施しています。当社ライフコンサルタントがご要望や状況に合わせたオーダーメイドプランを作成し、独自のライフシミュレーションを活用して丁寧にご案内致します。対面、オンラインのいずれでも対応可能ですので、ぜひこの機会にご検討ください。
Real Media メールマガジン登録完了
不定期(月1回程度)にてお役立ち情報のお知らせを
メルマガにてお送りさせていただきます
未来に向けての資産運用にご活用くださいませ。