資産運用
前稿では、空室率をシミュレーションや事業者間のリーシング力の比較に活用する際、「(1)空室の定義」「(2)空室の埋め方」に着目して、数字を補正する必要がある点をご説明しました。
本稿では、上記2点に加えて、空室率をシミュレーションに活用するうえで、特に不動産投資初心者の方が誤解しがちな2つの注意点をご説明します。
空室率は、収益物件の購入検討時のシミュレーションにおける、最重要パラメータの一つです。
正しい理解のもと、空室率を使いこなせるようにしておきましょう。
前稿でのご説明に沿って、「(1)空室の定義」「(2)空室の埋め方」に着目して補正計算を行い、手元に補正後の空室率が揃ったとしましょう。
しかし、補正後の空室率といえども、不動産投資初心者の方が、その数字そのままをシミュレーションに用いるのは少し危険かもしれません。
空室率は、あくまでも「統計上の数字」であり、ある程度の投資規模・投資期間があって、はじめて仮定値と現実の実績が近づいていく性質があるからです。
私が、不動産投資初心者の方からご相談をお受けしていると、
「不安が大きいので、まずは空室リスクの低い物件を一室だけ試してみたい」
というご意見をよく伺います。
たしかに不動産投資は、株式投資や投資信託などと比べても、一般に大きなお金が動きますから、小さく始めて様子を見たい気持ちはよく分かります。
また、最初の1室がいきなり長期間の空室になっては堪らないでしょうから、安全性を重視して空室率の低い物件で試すことは、一見すると理にかなっているようにも思えます。
しかし、ご注意いただきたいのは、「空室率」と「空室リスク」は似て非なるものであり、投資規模が小さいうちは、そしてお試し期間のような短期間の前提では、空室率が低い物件を購入するだけでは、空室リスクを必ずしも小さくできない、ということなのです。
たとえば、とても人気が高く、空室率が低いとされる、ある区分マンションの1室を購入したとします。
そのマンション全戸での空室率が3%程度だったとしても、購入した1室の運用実績が3%付近で落ち着くとは限りません。
いかにその物件が人気であっても、転勤や卒業・就職、結婚・離婚などによる退去は回避できませんし、退去時期によって空室期間も変動することでしょう。(リーシングの繁忙時期を控えた1月退去と、閑散期の6月退去では、想定される空室期間が違うことは容易に想像できるかと思います)
空室率3%という数字はあくまでも全体での統計上の数字であって、1室単位で見れば空室率が高い部屋もあれば、逆に空室率が0の部屋もあると解釈するのが自然だからです。
仮に、購入3年後に転勤による退去が発生し、原状回復含む空室期間が2ヵ月とすれば、入居サイクルあたりの空室率は5%超となります。
2ヵ月÷(12ヵ月×3年+2ヵ月)≒5.3%
見方を変えれば、空室期間を同様に2ヵ月とした場合、入居サイクルあたりの空室率が3%を下回るには、購入後6年間は入退去が発生しない前提が必要ということですね。
2ヵ月÷(12ヵ月×6年+2ヵ月)≒2.7%
入退去のサイクルや退去時期は、購入した1室の入居者さんの個別事情に依存しますから、大半は“運”といって過言ではなく、不動産投資家としてコントロールできる余地はほとんどありません。
所有物件が1室だけ、かつ短期間で見た場合、マンション全戸の空室率によらず、実際の運用実績がどこに着地するかは予測困難なのです。
資産運用の世界では、「リスク」=「期待収益のブレ幅」と定義します。
運用実績が予測困難ということは、期待収益のブレ幅が大きいということで、たとえ空室率の低い物件を購入したとしても、空室リスクが小さいとはいえないということです。
「区分投資は空室リスクが高い」という有名な格言はこうした事情を端的に表していると思います。
もちろん、「小さく始めて様子を見る」こと自体は否定しません。
賃貸運営を実際に始めないと分からないこともあるでしょうし、規模が小さければ万一のデフォルトリスクも小さくできます。
しかし、投資規模が小さく検証期間が短いと、空室リスクはむしろ大きくなってしまうことを理解したうえで、シミュレーションで使う空室率については、更なる補正の検討をすべきかと思います。
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最後に、空室率は、あくまで過去の統計でしかないということにも触れておきます。
たとえば、これまで盤石とされていた都心部の物件について、新型コロナウィルス対策によるリモートワークの増加等により、リーシングに苦戦している報道は、耳にした方も多いのではないかと思います。
今後、都心部の賃貸需要がどこまで回復するかは未知数ですが、少なくとも短中期的にはこれまでと同じ空室率で計算するのは危険かもしれません。
逆に、鉄道路線の延伸や大規模な再開発が計画されるエリアでは、住環境の改善によって大幅に空室率が良化する可能性もありますし、そうでなくとも、建物や室内のバリューアップによって空室率は改善を図れるケースもあります。
また、2022年以降、生産緑地地区の土地が市場に大量供給され、当該エリアで大量のマンション・アパートが建築されて賃貸の需給バランス崩壊を招くとする、いわゆる「2022年問題」も、タイムリミットが間近に迫ってきました。
空室率をシミュレーションに活用するうえでは、こうした内外事情の変化も織り込んで計算するべきでしょう。
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