資産運用
民泊新法ができる前は、旅館業法に基づき簡易宿泊所や特区民泊などの許可を取るしか、合法的に民泊をおこなう手段はありませんでした。
しかし簡易宿泊所や特区民泊は、ある程度経営基盤のある事業者向けの制度なため、一般の人が気軽に手を出せるものではありません。そのため無許可で所有物件を貸し出す、いわゆるグレーな状態で民泊をおこなっていた人がたくさんいたわけです。
ところが無許可運営によるトラブルが多発したため、2018年6月より、ついに「民泊新法」(正式名称は住宅民宿事業法)が施行されました。
同法の施行により、これまでグレーだった個人の民泊経営は、法律により厳格に制限されることとなります。しかしその結果、民泊新法の要件を満たす資本力のない事業者の退場が相次ぎ、民泊事業の勢いはストップしてしまいました。
そこにきて追い打ちをかけるように、コロナによる観光客減少の煽りをモロに食らう形となり、いま日本の民泊事業は瀕死の状態に陥っています。第2回となる今回は、この民泊新法で日本の民泊事業はどう変わったのか、コロナの影響も絡めながら詳しく解説していきます。
冒頭でも触れたように、個人経営の民泊は無許可営業でおこなわれることが多かったため、ゴミ捨てや騒音などのトラブルが絶えませんでした。
そのため最低限の要件を満たし、正式な手続きを踏めば、個人でも「住宅宿泊事業者」として登録できるようにしました。これにより、事業者に法律の下での適正な運営を義務づけたのです。
民泊新法で新しく義務づけられた主な要件は、以下のとおり。
・都道府県知事への届出の義務化
・年間の営業日は、上限180日
・騒音防止・ごみ処理など宿泊客への説明義務
・避難経路の表示・使用方法などの外国語表示・宿泊者名簿の設置などの義務化
・条件を満たした住宅のみが対象
・台所・浴室・便所・洗面設備がすべて設置されていること
以下1〜3の、いずれにかに該当すること
1.実際に人が生活している家屋
2.入居者の募集がおこなわれている家屋
3.随時所有者や貸借人が使用している家屋(使用履歴のない家屋は不可)
届出要件を簡素化した分、要件を守らない場合の罰則※は、かなり厳しいものになっています。たとえば、虚偽の届出や業務停止命令に違反した場合、「6月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はこれの併科」が課せられてしまいます。
また宿泊者名簿を設置していない・標識の表示がされていないケースでは、30万円の罰金を払わなければなりません。こういった法整備と各自治体の取締強化などにより、無許可民泊によるトラブルは、徐々にではありますが減少しつつあります。
※参考:住宅宿泊事業者 その他留意事項 | 民泊制度ポータルサイト「minpaku」
一言でいえば、無許可営業によるトラブル解消を目的として、民泊新法は制定されました。本来であれば、民泊そのものを禁止したほうが、簡単に解決できます。しかし激増するインバウンド需要に対応するため、きちんとした法対応で民泊事業を推進する方策が取られたのです。
元はと言えば、外国人観光客の需要を当て込み、宿泊所経営のノウハウをもたない人が大量に民泊事業へ参入したところに、トラブル発生の原因があります。
【近隣住民によるトラブルの実例】※
・見知らぬ外国人が入れ替わりマンションを訪れる恐怖感
・深夜でも頻繁に部屋を出入りする
・居室内での騒音
・ゴミ出しトラブル(分別しない・指定日以外に出すなど)
・貸主が不明で、苦情を出す相手すらわからない
こういったトラブルが発生しても、誰に苦情を出していいのかすら明確ではなかったのですから、大きな社会問題に発展したのは当然だったといえます。
また一般住宅を貸し出す無許可民泊施設には、通常宿泊施設に必要な「避難経路の表示」「外国語による案内」「消防施設」なども、設置されていません。
つまり宿泊客のモラルによる問題以外にも、そもそも第三者の宿泊に必要な基本的要件を満たしていないのが、これまでの無許可民泊施設だったわけです。こういった野放し状態を一掃すべく、今回解説している「民泊新法」は施行されました。
※参考:民泊を利用する人も、民泊事業を始める人も ご存じですか、新しいルール「民泊新法」 | 暮らしに役立つ情報
結論からいうと、民泊新法とコロナのダブルパンチで、日本の民泊事業はかなり厳しい状況にあるといえます。順を追って民泊新法施行後の流れを、みていきましょう。
2018年6月に施行された民泊新法により、日本の民泊事業は法律で管理されることになったわけですが、仲介業者の違法物件掲載数※には残念ながら大きな改善は見られませんでした。(2018年9月:2,232件 → 2019年3月:2,154件)
しかし正規の手続きを踏み登録する事業者は着実に増えており、2018年6月当初2,210件だった登録者数は、2020年3月の段階で10倍を超える28,635 件にも達しています。
こういった上昇基調は、2021年に開催予定の東京オリンピックを見据え、建物の整備と運営に多少コストがかかっても十分に回収できるという目算があると考えられます。
しかしその一方で、廃業者数も着実に増加しており、2020年3月の時点で9,000以上の事業者が廃業届を提出しているのが現状です。
廃業を選ぶ事業者が増加した背景には、以下のような原因が考えられます。
・要件を満たすためのコストが負担
・年間180日までしか営業できないので、売上が上がらない
・競合が増えて、思ったように利益が上げられない
世界的なコロナの大流行により、民泊事業は現在進行形で大打撃を受けています。実際、廃業届の件数※をみると、増加数とコロナ拡大の時期はぴったり一致していて、いまだその勢いはまったく衰えていません。
残念ながら頼みのオリンピックも、外国人観光客の受け入れ断念が正式に発表されました。コロナの影響で7倍に増えた廃業数は、今後さらに増加するのは間違いないでしょう。
※参考:届出住宅数等の推移
今回は、民泊新法が日本の民泊事業にどのような影響を与えてきたのかを、解説してきました。違法であった民泊事業を、きちんと法律によって管理できるようにしたのは、正しい判断だったと思います。
しかし営業日の上限が180日しかないことや、施設整備のコストがかかることから、民泊事業の勢いが正直下火になってしまったのは否めません。
さらにコロナと東京オリンピックの外国人観光客受け入れ断念により、今後さらに民泊事業が厳しい状況にさらされるのは確実でしょう。
第3回目となる次回は、現在同じようにコロナの影響を受けている海外の民泊事情について、詳しくご紹介していきます。
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