節税
近頃、住宅借入金等特別控除(以下、「住宅ローン控除」と書きます)の制度について、令和4年度以降の変更(改悪)を心配する声が広がっています。
ご存じの方も多いと思いますが、住宅ローン控除とは、住宅ローン借入後10年間に渡って、年末の住宅ローン残高の最大1%に相当する金額が、原則として所得税から(一定条件を満たす場合には一部住民税から)税額控除される制度です。
生命保険料控除や医療費控除などの所得控除と異なり税額そのものが控除されるため、特に一般家計における減税効果は大きく、住宅売買の活性化を促す政策の一つとされています。
さらに、消費増税の影響を抑えるために導入された、住宅ローン控除の期間延長(10年間→13年間)の特例について、令和3年度に条件付きで延長・拡充が行われたことは記憶に新しいところです。
このように、住宅購入者の金利負担を軽減し、住宅売買の市場を下支えしている住宅ローン控除ですが、冒頭のとおり、「令和4年度以降に制度内容が改悪されるのでは?」という噂が広がっています。
本稿では、その噂の根拠と今後の見通しについて解説していきます。
※原稿執筆時点の情報によるため、今後の動向次第では変更になる可能性がある点、予めご了承ください。
■現在の住宅ローン控除の概要をおさらい
はじめに、令和3年現在の住宅ローン控除の概要をおさらいしておきます。
住宅ローン控除により税額控除される上限金額は、以下のとおりです。
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<住宅ローン控除(税額控除)の計算式>
【1年目~10年目】
・年末の住宅ローン残高(上限4000万円)の最大1%
【11年目~13年目】
・「建物の取得価格(上限4000万円)の2%÷3」または「年末ローン残高(上限4000万円)の1%」のいずれか低い金額。(実質的な控除額の上限は、3年間で80万円)
※本稿の主旨(令和4年度以降の制度変更)から、長期優良住宅の特例や入居時期による適用除外等、現在の細かな特例・適用条件の説明は割愛しています。
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このうち、年末の住宅ローン残高の「1%」という部分が、令和4年度以降に制度変更(改悪)が行われるのでは? と焦点になっています。
住宅ローン控除の令和4年度以降の制度変更(改悪)について、噂の根拠を辿っていくと、折しも令和3年度税制改正大綱に辿り着きます。
前述した、令和3年度の特例延長を記した文書のなかに、令和4年度以降の制度変更に関する具体的な記述が併記されていたのです。
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<令和3年度 与党税制改正大綱より抜粋>
(6)住宅ローン控除等
新型コロナウィルスの影響による・・・(略)・・・控除期間13年間の特例について延長し・・・(略)。
なお、平成30年度決算検査報告において、住宅ローン減税の控除率(1%)を下回る借入金利で住宅ローンを借り入れているケースが多く、その場合、毎年の住宅ローン控除額が住宅ローン支払利息額を上回っていること、適用実態等からみて国民の納得できる必要最小限のものになっているかなどの検討が望まれること等の指摘がなされている。
・・・(略)・・・、こうした会計検査院の指摘を踏まえ、住宅ローン年末残高の1%を控除する仕組みについて、1%を上限に支払利息額を考慮して控除額を設定するなど、控除額や控除率のあり方を令和4年度税制改正において見直すものとする。
【出典】自由民主党 令和3年度税制改正大綱
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少し長いので要約すると、
・現在の住宅ローン金利は、大半の方が1%未満で借入できる水準
・そうすると、年間の金利支払い分よりも、住宅ローン控除で税額控除される金額の方が大きくなる
・せめて、税額控除の上限は、年間の金利支払い分を上限とすべきでは?
ということのようです。
たしかに、金融機関における住宅ローン金利は大幅に下がっており、最近では1%どころか、条件次第では0.5%を切るような金利での借入も珍しくない状況です。
たとえば、「借入金4,000万円、借入期間35年、金利0.5%、元利均等」で住宅ローンを組む場合、初年度の金利支払いは約20万円です。
その一方、借入初年度の年末残高は3,895万円のため、その1%にあたる約39万円が最大で税額控除されることとなります。
初年度だけで差し引き約19万円が儲かってしまう計算ですし、借入2年目以降についても、元利均等返済では年末残高の減少と同時に支払い金利も減っていくため、(借入条件にもよりますが)この逆ザヤ状態が続くケースが多いことでしょう。
こうした状況は、不動産の専門家だけでなく、一般の方にも広く知られる状況となっており、「自己資金があっても、敢えて住宅ローンは借りるべし!」「住宅ローンを活用した錬金術だ!」などといったコメントはSNSでもよく見受けられます。
住宅ローン控除の原資は、本来納税されるはずの所得税・住民税、つまり税金ですから、本来の制度主旨を超えて、一部利用者に偏った利益を生んでいる現状はたしかに健全ではありません。
与党税制改正大綱を素直に読めば、住宅ローン控除自体の廃止というものではなく、「年末の住宅ローン残高(上限4000万円)の最大1%または年間の借入金利支払総額の小さい額を控除上限とする」といったもので、この範囲での制度変更であれば仕方ないという考え方もあることでしょう。
とはいえ、住宅ローン控除の制度変更(改悪)は、その内容・時期いずれについても、現時点で決まった事実はありません。
与党税制改正大綱に明記された以上、具体的な検討が進んでいることは想像に難くありませんが、今年は新型コロナウィルスの感染爆発やそれを受けての度重なる緊急事態宣言の発令等により、与党の当初想定を大きく超えた経済や一般家計へのダメージがあったはずで、変更の決定には、より慎重な判断がなされる可能性もあるかもしれません。
また、忘れてはならない点として、住宅ローン控除の恩恵は決して小さくありませんが、それでも数千万円規模の不動産価格から見れば影響は限定的ですし、フラット35や長期固定金利での借入を予定している方には実質的な影響はさらに小さいはずで(前述した極めて低い金利の多くは、変動金利または短期固定金利で見られる傾向です)、住宅購入を過度に焦ることは得策ではありません。
今後発表される情報にアンテナを張りつつ、ご自身への影響を冷静に計算して判断できるように心がけたいものです。
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