保険年金

保険年金

雇用保険が引き上げ!? その背景と影響とは!?

雇用保険が引き上げ!? その背景と影響とは!?

雇用保険が引き上げ!? その背景と影響とは!?

2021年7月末、やはりと言うべきか、いよいよと言うべきか、厚生労働省が雇用保険の引き上げを検討することが明らかになりました。
報道によると、2021年秋にも具体的な引き上げ幅などを議論し、早ければ2022年の通常国会に雇用保険法の改正案を提出する方針とのこと。

雇用保険引き上げの原因は、新型コロナウイルスの影響により「雇用調整助成金」の給付決定額が4兆円を超えたことで財源不足に陥ったため、と説明されています。
本稿では、そもそも「雇用保険」「雇用調整助成金」とはどんな制度なのか、そして雇用保険の引き上げの背景とこれから懸念されることについて解説していきます。

■そもそも雇用保険とはなにか?

本題に入る前に、今回見直しの対象となっている雇用保険について、おさらいしておきましょう。
雇用保険とは、一定の条件を満たす労働者を対象とした、政府が管掌する強制保険制度です。
大きく、「失業等給付」「育児休業給付」「雇用保険二事業(雇用安定事業・能力開発事業)」から構成されています。

【出典】ハローワークインターネットサービス 雇用保険制度の概要


雇用保険の保険料は、使用者(会社)と労働者(従業員)の双方で負担することとなっており、2021年度の一般事業では、労働者の給与に対して使用者は0.6%、労働者は0.3%の合計0.9%です。(料率は事業内容によって異なります)また、雇用保険の対象者は、以下条件を満たした全ての労働者とされています。

-----------------------------------------------------------------
<雇用保険の被保険者>
①31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること。
②1週間の所定労働時間が 20 時間以上であること

-----------------------------------------------------------------

雇用保険は、幅広い労働者を対象とした、失業時や育児休業取得中の賃金減少時などに、その生活を支える大切な仕組みであるといえます。

■雇用調整助成金とは

では、そんな雇用保険の引き上げの原因となった雇用調整助成金とは、いったいどんな制度なのでしょうか?
厚生労働省によると、雇用調整助成金とは、『経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度です』と説明されています。

【出典】厚生労働省 雇用調整助成金

企業は売上見通しが立たない場合などに事業を休業した場合であっても、原則として従業員に休業手当を支払わなければなりません。
しかし、休業手当を支払う立場の企業が厳しい事情にあるとすれば、休業手当を支払うことで企業が存続できず、結果として従業員の雇用が失われることが心配されます。
そこで、一定条件を満たす企業に対して、国から雇用調整助成金を支給することで、従業員への休業手当の支払いと雇用の維持の両立を図ろうといった制度主旨となっています。
また、近年ではリーマンショック時など大量の失業者が懸念されるシーンでは特例を導入して制度の活用を後押しするなど、ある意味では柔軟に運用されてきた経緯がありました。
今回の新型コロナウィルス感染拡大においても、政府からの営業自粛要請や不要不急の外出自粛要請による客足の激減など、業種によっては長期間の休業に伴う大量の失業者発生が強く懸念されたことから、やはり特例措置を導入して助成条件の緩和や助成率・上限額の引き上げなどが行われています。

 

 
【出典】厚生労働省 雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)

この特例が導入されたことにより、雇用調整助成金の納付決定額は既に4兆円に達し、これからさらに拡大する見通しです。(参考まで、リーマンショックの影響を受けた2009年の支給総額は約6,500億円でした。今回がいかに桁違いの金額規模であるかが窺えます)
もっとも、雇用調整助成金の財源枯渇については、昨年2020年から話題になっていました。これまでは、国庫負担つまり税金による補填と失業者向け事業からの借入によって凌いでいるそうですが、それも限界が近いということなのでしょう。

■雇用保険の引き上げによって何が起きる!?

こうした背景から、雇用保険の引き上げ自体は止むを得ない側面があると思います。
現実問題として、雇用調整助成金の財源は既に枯渇しているわけですから、仮に、雇用保険を引き上げなかったとしても、税金である国庫負担を続ける(拡大する)か、支給内容を見直す(支給内容を減らす)などにより対応せざるを得ないからです。
では、予定通りに雇用保険が引き上げられた場合、どんな影響が考えられるでしょうか?
2021年8月1日現在、具体的な雇用保険の引き上げの時期・幅などは不明ですが、いずれにせよ、保険料を負担する使用者(会社)と労働者(従業員)の双方の支出が増えることは間違いありません。
さらに、最悪のケースとしては、企業側が雇用保険料の支払いを嫌って、前述した雇用保険の被保険者となる条件を回避する動きを見せることも考えられます。
たとえば、週20時間未満の方の雇用を増やす事業者が増えれば、結果的に従業員に不利益が偏ることになります。
あるいは、実態としては雇用と同じ働き方でありながら、契約だけを個人事業主契約とするなどといったケースも増えてしまうかもしれません。
雇用保険の引き上げ自体は止むを得ないにせよ、非正規雇用者や個人事業主の方に向けたセーフティネットの拡充や、不当な労働契約の排除についても、政府には検討してほしいところですね。

このエントリーをはてなブックマークに追加

友だち追加

関連記事