資産運用
「一物一価の法則」という言葉をご存じでしょうか?
経済学における有名な概念で、「自由な市場経済においては、同一の市場の同一時点における同一の商品は、同一の価格である」が成り立つという経験則のことです。
しかし、少し日常生活を振り返ってみるだけで、この「一物一価の法則」が成立するシーンは、少なくとも今の日本社会にほとんどないことに気付きます。
一応、多くの商品には「メーカー希望小売価格」などの目安となる価格が設定されてはいるものの、実際の販売価格は、全く同じ商品であっても販売しているお店によってバラバラですし、同じお店でもネットか店頭かによって販売価格が異なるケースも珍しくありません。
いまや一つの商品について、全国どこでも同じ金額で統一販売されている商品を探す方が難しいといえますが、この様に同一の商品が様々な価格で売られていることを「一物多価」と言います。
そして、古くから「一物多価」の代表例ともいわれてきたのが、本稿のテーマである“土地”です。
なぜ、土地には複数の価格があるのでしょうか。
本稿では、複数ある土地の価格とその意味合いについて、分かりやすく解説していきます。
結論から先に書いてしまいますが、土地には5つの価格が存在します。(一物五価)
といっても、その土地を販売(仲介)する不動産業者によって、販売価格が5パターンあるという意味ではなく、その土地の価値を判断するシーンによって、同じ土地なのに5つの違う価格が付くという意味です。
土地の持つ、5つの価格の名称と概要は以下のとおりです。
それぞれの詳細は後述しますが、土地の売買や相続時、こうした土地の価格の仕組みをしっておくことは非常に重要であることは是非知っておきましょう。
<土地の一物五価>
では、土地の持つ5つの価格について詳しく見ていきましょう。
公示価格とは、『対象となる土地の正常な価値を評価した価格』のことで、他の4つの価格の目安にもなっています。
『正常な価値』とは、売り急ぎなどの特殊な事情がない場合に成立するであろう価格のこと(2名の不動産鑑定士が判定します)で、土地の取引(売買等)の目安となる金額を公表することで、適正な価格形成に寄与することが目的とされています。
よく、毎年のニュースなどで、「今年は地価が上がった!(下がった!)」と話題になりますが、そうしたニュースの元になっているのがこの公示価格です。
基準地価格とは、公示価格と同様に『対象となる土地の正常な価値を評価した価格』のことです。
但し、価格を決定するのは国(国土交通省)ではなく、その土地の所在する都道府県で、1名以上の不動産鑑定士によって判定されています。
調査地点は公示価格のそれとは異なる場合が多いことから(より広範な範囲を調査します)、しばしば公示価格を補完する意味合いで使われています。
また、基準地価格は本質的には公示価格と同一の意味合いであることから、公示価格と基準地価格を一括りに整理する考え方もあり、その場合には「一物四価」と表現します。
相続税評価額とは、国税庁が定めた『相続税・贈与税等の課税根拠となる価格』のことで、公示価格の80%前後の価格になるとされています。
なぜ、敢えて公示価格と相続税評価額に差分を生じさせているかには諸説ありますが、実際の取引金額が公示価格を下回るケースでの相続税負担に配慮したもの、との見解が多いようです。(公示価格はあくまでも土地取引の目安であり、個別事情によりそれより下回る金額での売買は十分に考えられるため)
また、金融機関が不動産取引に対して融資を行う際、その担保評価基準として相続税評価額を参考とするケースが多いとされています。
固定資産税評価額とは、その土地の所在する市町村が定めた『固定資産税等の課税根拠となる価格』のことで、公示価格の70%前後の価格になるとされています。
固定資産税以外にも、都市計画税・不動産取得税・登録免許税の課税根拠としても利用されています。
実勢価格とは、実際に不動産市場で取引される価格であり、実際の取引が成立する価格のことです。
公示価格や基準地価格は、あくまでも土地取引の目安でしかなく、それより高い金額・低い金額で取引することはもちろん自由ですから、実勢価格との差分は大なり小なり発生するケースが大半です。
このように、土地の取引や所有に関して、複数の価格を使い分ける必要があります。
たとえば、売却・購入を検討するシーンでは「公示価格」「基準地価格」が売り出し価格や条件交渉の参考になりますし、相続時の節税を検討するシーンでは「相続税評価額」が重要になります。
聞きなれない用語が多かったかもしれませんが、土地を取引する際にはしっかり確認するようにしましょう。
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