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児童手当のうち、高所得者向けの「特例給付」について、2022年10月から制度が変わることをご存じでしょうか。
この特例給付の制度自体、そもそも一部からは「不公平感が強い」「納得感がない」などと批判を浴びていたのですが、それに追い打ちをかけるかのように、一部の高所得者に対して特例給付の支給そのものを廃止する決定が、2021年5月になされていたのです。
本稿では、この特例給付廃止まで1年を切ったいま、改めて児童手当を振り返ります。
是非、今回の制度変更について考えるきっかけとしていただければと思います。
特例給付の廃止についてご説明する前に、そもそも「児童手当とはなにか?」について、簡単におさらいをしておきましょう。
児童手当とは、中学校卒業までの児童を養育している方に向けて、児童一人あたり月額1万円(※)を支給する社会政策の一つです。
※第1子・第2子は3歳未満、第3子以後は小学校卒業まで月1万5000円を支給。
しかし、児童手当の支給には、以下のように、扶養親族等の数に応じた所得制限が設けられています。
【出典】内閣府 児童手当制度のご案内より抜粋
たとえば、扶養親族が配偶者と児童2人の場合、目安として年収960万円を上回るケースでは児童手当は支給されず、その代わりに特例給付として、児童一人あたり月額一律5,000円が支給されることになります。
冒頭でも書きましたが、この特例給付については、当初から不公平感が強いとして、批判の声が挙がっていました。
というのは、民主党政権下で変更された、児童手当の前身にあたる「こども手当」には所得制限がなかったうえ、その財源確保のために途中から年少扶養控除を廃止した経緯があるのです。
扶養控除が廃止になった分、子育て世帯には実質的な増税となりますが、「税金を多く払って、代わりにこども手当(後の児童手当)をもらう」ことでバランスを取ろうとしたわけです。(もっとも、所得税率が超過累進課税制度となっている以上、高所得者ほど、扶養控除廃止による増税の影響を吸収しにくい構図ではありました)
しかし、その後、こども手当が児童手当に再度変更された際、年少扶養控除は廃止したまま、児童手当には所得制限が設けられることになりました。
所得制限に該当した場合も、特例給付による支給は受けられますが、金額は一律5,000円と大幅に減額されてしまいます。
「児童手当に所得制限を設けるのは政策主旨からしておかしい」「それであれば年少扶養控除を復活させてくれ」といった不平や不満の声が挙がるのは、ある意味で当然なのかもしれません。
そして、本稿のテーマである、児童手当の特例給付廃止です。
2021年5月21日、改正児童手当関連法が、参院本会議で賛成多数で可決・成立したことを受け、『2022年10月以降、世帯主の年収1,200万円以上のケースには、児童手当の特例給付を廃止する』ことが正式に決定しました。
ただでさえ批判の多かった特例給付について、高額所得者には支給額をゼロにするという、さらに不公平・不納得を助長する制度変更が決まってしまったわけですね。
政府の推計によれば、この制度変更で特例給付の対象から外れる児童の数は約61万人(全体の4%)で、年間370億円の財源に相当するとのこと。
政府は浮いた財源で、希望しても保育施設に入れない待機児童問題の解消を目指すと説明していました。
では、2022年以降、世帯主の年収1,200万円以上だと、いくらの児童手当を受給し損ねてしまうのでしょうか。
概算ですが、子供一人あたりの金額は約198万円にもなります。(厳密には誕生月等によって異なります)
さらにいえば、児童手当の支給金には、税金も社会保険料もかかりませんので、仮に税金と社会保険料を合わせた実質負担率が50%の世帯であれば、給与換算ベースでは約400万円にも相当する計算となるわけです。
もちろん、これが子供2人、3人の世帯であれば、高所得者の被る不利益はさらに拡大します。
こうしたお話をしても、
といったご意見もあるかもしれません。
たしかに、高所得者の負担増が児童手当だけであればそうでしょうが、実際には別の部分でも、既に所得に応じた重い税金・社会保険料等を負担しています。
たとえば、所得税・住民税は年収によって青天井に増加するうえ、所得税に至っては超過累進課税制度によって、その税率自体が5%→45%まで上昇します。
社会保険料も所得(標準報酬月額)に応じて増加する仕組みで、たとえば令和3年分の東京都の協会けんぽの健康保険料(介護保険第2号被保険者に該当しない場合)は月額5,707円→最大月額136,776円に、同厚生年金保険料は月額16,104円→最大月額118,950円まで、所得によって上昇します。
さらには、特例給付廃止による財源で補充するという保育園についても、自治体によって所得による保育料に差がついており、例えば東京都世田谷区のホームページによれば、3歳未満の保育料は月額0円→月額79,000円まで上昇することが記載されています。
※金額は以下料金表より抜粋
https://www.city.setagaya.lg.jp/theme/006/001/002/d00005744_d/fil/hoikuryouitirann.pdf
ほかにも、各自治体の実施する個別の社会政策のうち、所得制限があるものを列挙したらキリがないほどです。
こうした不公平が前提にあったうえでの「児童手当の特例給付の廃止」ですから、高所得者にとっても、決して軽視できない制度変更だといえます。
そして、「世帯主の年収が1,200万円以下」の家庭でも、他人事とは笑ってはいられません。
政府は今後、所得制限の基準を、「世帯主の年収」から「世帯年収」に変更することも検討しているそうです。
仮にそうなれば、共働き家庭や配偶者にパート収入のある家庭も、今後は児童手当の支給対象から外されてしまうかもしれません。(もっとも今の制度設計では、「世帯主の年収1,200万円の家庭」が特例給付の廃止となる一方、「両親とも年収1,100万円×2人の家庭」では特例給付が継続するという捻じれ現象が生じることとなり、これもまた批判の一大要因となっているのですが・・・)
いかがでしたでしょうか。
政権交代を挟んだこともあり、児童手当はなんともチグハグ間の否めない政策となりつつあります。
財源不足による制度変更は仕方ないにせよ、政府には公平感・納得感のある対応と説明を求めたいところですね。
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