資産運用
「反響がないので、少し価格を下げてみませんか?」
自宅の買い替えや資産整理などで不動産を売却する際、仲介を依頼した不動産業者からこんな提案を受けることがあります。
しかし、この言葉を鵜呑みにするのは少々危険かもしれません。
なぜなら、その不動産業者が「囲い込み」を行った結果、反響が減っているだけの可能性もあるからです。
「囲い込み」とは、不動産業者が不当に売却情報をコントロールすることで自社の利益を最大化しようとすること。
売主としては、売却する不動産の販売機会ロスとなるばかりか、冒頭のように販売価格の値下げを招きかねない、極めて迷惑な行為です。
本稿では、不動産の売却でなぜ「囲い込み」が発生してしまうのか、そして売主としてどのように対策をすればよいのかについて、前編と後編に分けて分かりやすく解説していきます。
私のコラムでは度々お伝えしていますが、不動産取引は「売る」にせよ「買う」にせよ、一般生活における他のどの支出と比べても、突出して大きな金額が動きます。
少しでも有利に取引するためには(せめて不利にならない取引をするためには)、不動産業界ならではの独特な仕組みを知っておくことが重要で、これは「囲い込み」にも当てはまります。まずは不動産売買の仕組みからご説明しましょう。
一般に不動産を売却する際、売主は、特定の不動産業者と媒介(仲介)契約を締結し、その不動産業者(以下、「元付業者」)に買い手を探してもらうことになります。
元付業者は、買い手が現れた後も、売主・買主間での売買契約締結などの一連の取引業務を最後までサポートし、無事に売買が成約した際にのみ、報酬(仲介手数料)を受け取るというのが基本的な仕組みです。
この不動産売買を、買主(買い手)の立場からも見てみましょう。
買い手が売却中の不動産に問い合わせする際、一般的にその不動産の広告(インターネットやチラシなど)に記載のある不動産業者に問い合わせをします。
この広告を作成した不動産業者は、元付業者であることもあれば、元付業者が流した売却情報を見て広告を作成した別の不動産業者(以下、「客付業者」)であることもあります。
取引条件が纏まれば、買い手は、最初に問い合わせをした不動産業者と媒介(仲介)契約を締結し、売買の実行に移ります。
このように、不動産の売却では、「売主」「買主」「元付業者」の三者が登場するパターンと、「売主」「買主」「元付業者」「客付業者」の四者が取引に登場するパターンがあるというわけです。(実務ではこれ以外のパターンもありますが、この2パターンが基本となります)
もう1つ重要な点は、「仲介手数料は法令によって上限が決まっている」「仲介手数料は、原則として売主または買主と直接契約をした不動産業者が受け取る」ということです。
仲介手数料の上限は売買金額によって異なりますが、たとえば400万円を超える場合の上限金額は「(売買価格×3%+6万円)+消費税」です。
もし、5,000万円の不動産を売却したとすると、売主から受け取る仲介手数料は最大171.6万円((5,000万円×3%+6万円)×1.1)、買主から受け取る仲介手数料も最大171.6万円ということになります。
取引が元付業者だけであれば、元付業者は343.2万円(171.6万円×2)を受け取りますが、元付業者と客付業者が登場するパターンでは、原則として元付業者と客付け業者が171.6万円ずつを受け取ることになります。
ここまで読み進めていただけば、勘の良い方はもうお気付きかもしれません。
こうした不動産売買の仕組み上、元付業者としては「売主」からは確実に、そしてなるべく「買主」からも仲介手数料を受け取りたいと考えます。
そのため、売買が成約すれば確実に売主から仲介手数料を受け取れるよう、売主には、他の不動産業者に重ねて媒介契約を締結できない「専任媒介契約」または「専属専任媒介契約」を勧めてくるケースが多いのです。
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※不動産売却時の契約については、コチラの記事で詳しく解説していますので、本稿と合わせてご参照ください。
不動産売却!「仲介」「買取」は使い分けが大事!
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元付業者にとっては、売主と「専任媒介契約」または「専属専任媒介契約」が締結できれば、とりあえず売主側の仲介手数料は確保できます。
では、元付業者が買主からも確実に仲介手数料を受け取るには、どうするのでしょうか。
もちろん、元付業者の販売活動によって真っ当に買い手が見つかるならベストでしょうが、全国の不動産業者を相手にして、全ての取引でこれを実現するのは至難です。
こうした背景から、大変残念なことに、「客付け業者には不動産の売却情報を流さない」「客付け業者経由の買い手は相手にしない」という行動を起こすケースが未だに少なからず発生しており、これを「囲い込み」と呼ぶわけです。(元付業者が情報を囲い込んで独占する、という意味合いですね)
これは売主からすれば販売機会のロスとなりますし、買い手にとっても、その不動産が売却中の事実を知ることができない可能性が高まり、売買当事者のいずれにもデメリットしかありません。
さらに悪質なケースでは、「囲い込み」をしておきながら平然と「反響がないので、少し価格を下げてみませんか?」などと、売主に提案してくるケースもあるのです。
では、こうした「囲い込み」に対して、どのような対策を取ればよいのでしょうか。
後編では法令による規制、そしてご自身で行える自衛策をご紹介していきます。
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