資産運用
これから資産運用・投資を始めようという方にとっての最大の心配事といえば、「お金が減ってしまうリスク」が筆頭候補に挙がることでしょう。
たしかに、ほとんど全ての資産運用・投資では、大なり小なりの元本割れリスクを抱えていますので、その心配事を否定することはできません。(満期解約時に元本償還する社債や保険商品もありますが、企業の倒産リスクがあるため、厳密には元本割れリスクがないとは言い切れません)
しかし、では「何もしない方が安全か?」と言われれば、それはまた別の話です。
本稿では、資産運用・投資に不安や心配が大きく、なかなか始める決断ができない方に向けて、FPの立場から「リスク」の考え方を分かりやすくご説明していきます。
最終的なご判断は人により異なることは当然ですが、その判断材料の一つに本稿の内容を活用いただければ幸いです。
まずは、資産運用・投資における「リスク」の意味合いから確認しておきましょう。
日常生活では、しばしば「リスク=危険」といった意味合いで用いられますが、資産運用・投資の世界では、「リスク=不確実性・期待収益のブレ幅」といった意味合いで用いられています。
当たり前ですが、資産運用・投資において、事前に予測したとおりの運用成果(これを「リターン」といいます)を出し続けることはできません。
しかし、運用商品や投資手法によって、期待するリターンの実現確率はある程度予測することができますし、実現しなかった際の上振れ・下振れの大きさも、おおよそは事前に予測が立てられます。
たとえば、株価が乱高下を繰り返す1つの株式銘柄に投資して1ヵ月後に売却したケースでは、リターンが大きくプラスである可能性もある一方、大きなマイナスで終わる可能性も考えられますよね。
この場合、期待収益(≒リターン)のブレ幅が上下に大きいため、「リスクの大きい投資」ということになります。
逆に、銀行株と言われるような株価の安定した銘柄に複数分散投資して翌日売却するケースでは、リターンはプラスであれマイナスであれ小さいものに終わる可能性が高いと予測できます。これが「リスクの小さい投資」ということです。
このように、資産運用・投資の世界では、基本的にリターンとリスクはトレードオフの関係にあることが基本です。
「リスクの低い投資」が、必ずしも優れた運用商品・投資手法ではないということを、まずはご理解ください。
ここまで読まれて、「やっぱり資産運用・投資にはリスクがあるではないか!」と思われたかもしれません。
たしかにリスクを無くすことはできません。
しかし、リスクをコントロールする手法は確立されていますので、代表的なものをいくつかご紹介しておきましょう。
①銘柄分散
先ほど「リスクの小さい投資」の例でも触れましたが、株式や債券などを1つの銘柄ではなく、複数の銘柄に分散して投資することで、それぞれの値動きの違いで全体のリスクを抑えることができます。
さらに、相関関係のない銘柄を組み合わせる(たとえば、円高が業績にプラスになる銘柄とマイナスになる銘柄など)ことで、リスク抑制効果をいっそう高めることができます。
②資産分散(市場分散・通貨分散)
銘柄分散だけでは、市場全体を覆うリスク(これを「システマテックリスク」といいます)の顕在化には脆弱であるとして、別の市場(たとえば、国内株式市場と海外債券市場など)や別の通貨(たとえば円建ての債権とユーロ建ての債権など)にまで分散効果を拡大させる方法も有効です。
③時間分散
一度に集中して運用を開始すると、開始時期によっては高値掴みだったり、下落相場だったりといったリスクがありますが、これの回避には、運用商品の購入時期をずらすことが有効です。
有名な手法として、一定期間中、一定の金額ずつ分散投資する「ドル・コスト平均法」があります。
このように、様々な角度からリスクに備えて、複数の運用商品に分散投資する手法(あるいはその分散投資の状況)を「ポートフォリオ」といいます。
ポートフォリオの精度を高めることで、リスクをよりコントロールできるということです。
では、冒頭にあった「資産運用・投資を何もしない方がよいのか?(安全といえるのか?)」について考えていきましょう。
色々な考え方があるのですが、本稿では「実質的な価値」に着目してご説明します。
たしかに資産運用・投資を何もしなければ、お金は増えない代わりに減ることもありません。
しかし、実はお金の「実質的な価値」は日々変動しています。
物価が上がり、お金の実質的な価値が下がることを「インフレ(インフレーション)」といいますが、インフレ下において保有する現金の金額が一定であれば、「額面は減らないが、実質的なお金の価値は下がる」状態となります。(その逆に、物価が下がり、お金の実質的な価値が上がる状態を「デフレ(デフレーション)」といいます)
足元では既にインフレの予兆があり、しかも国民の所得は上がらず需要拡大を伴わない「スタグフレーション」の発生を懸念する声も散見されるようになりました。
インフレやスタグフレーションが進み、今まで1万円で買えていた物が2万円になるようなら、いくら額面だけ1万円のままでも仕方ないということです。
もっとも、今後の日本経済が本当にインフレやスタグフレーションに進むのかは、まだ分かりません。(インフレの指標の一つである消費者物価指数についても、新型コロナウィルス対策による特殊要因を多分に含み、直接的には参考にしにくい状況です)
ただ、確実に言えることは、少なくとも一国の物価動向は、個人レベルでコントロールできるようなものではないということです。
その意味で、「敢えて、保有する現金に何もしない」という判断をすることは、“個人でコントロールできない物価動向に身を任せる”ということでもある、という見方もできます。
これがご自身の考える「何もしない方が安全」というイメージに近いものであるか、是非、判断材料の一つに加えていただければと思います。
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