保険年金
先日、損害保険の大手4社(東京海上日動、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険)が、火災保険の保険料を10月から全国平均で11~13%引き上げる見通しと報道されました。
相次ぐ大規模な自然災害によって災害関連保険金の支払いが増加し、各社の収益を圧迫しているため、今後は地域ごとの上げ幅を検討するとのことです。
火災保険料といえば、割安な10年契約が廃止されて最長5年契約となり、実質的な値上げとなることが報道されたばかりです。(そもそも、より割安な35年・36年契約が廃止されたのも、比較的最近の話でした)
SNSなどでは、各社の値上げに理解を示す声がある一方、相次ぐ負担増加に対して、「大手保険会社の給与体系を先に見直すべき(社員の給与が高すぎる)」「保険料に転嫁する前にもっと経営努力すべき」といった批判の声も上がっています。
では、各社の保険料はどのように決められているのでしょうか。
本稿では、基本的な保険料の算定ルールについて分かりやすく説明していきます。
まず、保険料は、大きく分けて「純保険料」と「付加保険料」の2つで成り立っていることからご説明しましょう。
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●「純保険料」+「付加保険料」 =保険料
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「純保険料」とは、実際に火災などの被害が発生した際に支払う保険金の原資です。
純保険料は、「収支相等の原則」により、『保険会社の受け取る保険料の総額と、保険会社の支払う保険料の総額は等しくならねばならない』とされており、後述する「参考純率」を参考として、過去の発生実績や今後の発生見通しなどから各社が独自に算定しています。
今回報道された保険料の値上げは、近年の大規模な自然災害によるものとありますので、「純保険料」の増加によるものと解釈できるでしょう。
もう1つの「付加保険料」とは、保険会社の運営経費です。
ここには保険会社の「人件費」「広告費」なども含まれており、なるほど経営努力により圧縮余地があると考えることもできますので、先ほどご紹介したような「社員人件費が高い」「経営努力が足りない」といった批判は、この付加保険料への指摘と整理することが可能です。
しかし、殆どの保険会社は、保険料に占める「付加保険料」の内訳や割合を開示していないため、実際のところは外部から伺い知れない部分となっています。
■純保険料は「参考純率」を参考にして決めている!
ここからは、「純保険料」の決め方についてもう少し詳しく見ていきましょう。
前述したように、純保険料は、実際に火災などの被害が発生した際に支払う保険金の原資となることから、なるべく高い精度で今後の支払予測を立てることが求められます。
そのため、保険各社としても、自社の過去実績だけでなく、他の保険会社の実績を含むより広範なデータを参考材料としたいはずです。
そうした背景から、多くの保険会社は損害保険料率算出機構(※)の提供する「参考純率」を、純保険料を決めるうえでの重要な指標として活用しています。
損害保険料率算出機構は1948年に設立された非営利の民間団体で、保険事業に関する各種データの算出・提供を主たる目的としています。
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●損害保険料率算出機構
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本稿のテーマである火災保険に関しては、「火災保険参考純率」が参考指標とされています。
同機構によると、
・各保険会社から収集した大量の契約・支払いデータおよび各種の外部データを活用して算出
・保険料率の3つの原則(「合理的」「妥当」「不当に差別的でない」)に基づき、物件種別(「住宅物件」「一般物件(オフィス等)」「工場物件」「倉庫物件」)と建物の構造・所在地などを考慮して算出
・算出結果を毎年度検証し、金融庁へ報告し審査を受けている
といった方法により「火災保険参考純率」を算出し、その妥当性を確保しているとのことです。
こう言われると、是非ともその参考純率を調べてみたくなりますが、残念ながら同機構が公表するのは変更内容のみで、肝心の参考純率自体は非公表となっています。
※同協会のホームページに非公表である点が明記されています
https://www.giroj.or.jp/ratemaking/fire/
こうして整理してみると、保険料の決め方には、一見するとある程度の透明性、そして合理性・客観性があるように見えます。
しかし、それぞれを少し詳しく見ていくと、「参考純率」や「純保険料・付加保険料の内訳・割合」など、肝心の数値は全て非公表のため、結局のところ保険料の正当性を検証することはできません。
中途半端に保険料の仕組みが公開されていることで、かえって誤魔化されたように感じてしまい、相次ぐ値上げへの納得感を得にくい構造となっているようにも思います。
もちろん、民間企業である保険会社が外部に利益構造を明らかにするべきとまではいえませんが、保険事業は公益性の高いビジネスであることも確かです。
自然災害の増加による保険料値上げ自体は仕方ないものの、これほどの値上げを短期間のうちに行うのであれば、保険会社にはより丁寧な説明を期待したいところではあるといえるでしょう。
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