資産運用
不動産投資の特徴を説明する際、よく「ミドルリスク・ミドルリターン」と表現されます。
たとえば、「株式投資はハイリスク・ハイリターン、定期預金はローリスク・ローリターン、不動産投資はミドルリスク・ミドルリターンの特徴があり、リスクとリターンのバランスに優れた投資手法です」といった具合に、不動産業者の営業トークなどでよく活用されています。
著者に資産運用のご相談に来られる方でも、ミドルリスク・ミドルリターンという表現に対して、「株式投資よりも失敗の危険が低く、定期預金よりも儲かるのであれば不動産投資は良さそうだ」と解釈されているケースは珍しくありません。
しかし、資産運用における「リスク」「リターン」とは、日常生活におけるそれとは意味が似て非なるもので、上記の解釈は必ずしも正しいとは言えないものです。
本稿では、本当に、「不動産投資はミドルリスク・ミドルリターンと言えるのか?」をテーマに、資産運用の目線から解説していきます。
まずは、資産運用における「リスク」「リターン」の意味を正しく理解することから始めましょう。
日常生活では、リスクは「危険」といった意味で使われますが、資産運用では、「リターンのブレ幅」または「不確実性」を意味しています。
また、リターンは、その資産運用における「期待損益」を意味しており、リターンがプラスであれば利益、マイナスであれば損失となります。
この前提で、改めて「ハイリターン」を考えてみましょう。
「ハイリターン=期待損益(利益・損失)が大きい」の特徴を持つ資産運用ということですから、プラスに振れれば利益が大きくなる可能性があり、マイナスに振れれば損失が大きくなる可能性があるということです。
また、「リスク=リターンのブレ幅(または不確実性)」ですから、ハイリターンである以上は、必然リスクもハイリスクとなります。
この関係は、重りの振れ幅の大きい振り子をイメージすると分かりやすいかもしれません。
プラスであれ、マイナスであれ、リターンを大きくするには振り子の振れ幅を大きくしないと理屈が成立しませんが、振れ幅を計る尺度がリスクですから、リターンとリスクは連動して動くしかない、ということです。
これは「ローリターン」でも「ミドルリターン」でも同じで、リスクとリターンは表裏一体・トレードオフの関係にあります。
では、資産運用における「リスク」とは、どういった要素から構成されているのでしょうか。
多くの方がイメージされるのは「価格変動リスク」ではないかと思います。
たとえば株式投資では株式の値動きが激しく、売却時の譲渡損益は大きくなる傾向にあり、株式投資はハイリスク・ハイリターンとされるイメージとも合致します。
しかし、たしかに「価格変動リスク」は代表的なリスクの一つではありますが、資産運用におけるリスク要素は他にも色々存在しています。
代表的なリスク要素を少しご紹介しましょう。
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<リスクの要素(例)>
①価格変動リスク
②信用リスク
③為替リスク
④カントリーリスク
⑤流動性リスク
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前述した「①価格変動リスク」は株式投資に限らず、多くの資産運用に共通するリスクの一つで、価格変動の度合いを示す言葉が、「ボラティリティ」です。
不動産投資では、収益物件の売買相場の変動をイメージすればよいでしょう。
「②信用リスク」は、いわゆる“デフォルトリスク”のことです。
不動産投資での影響は限定的ですが、サブリースなど特定の不動産会社と実質的に一体となって賃貸運営するケースでは、リスク評価の要素として勘案してもよいでしょう。
「③為替リスク」「④カントリーリスク」は、いずれも海外の株やファンドなどを運用する際に注意すべきリスクです。
海外の収益物件を購入する場合などを除き、不動産投資では直接的な影響は低いケースが多いでしょう。
「⑤流動性リスク」とは、市場での取引量が少ないことなどにより、売却による現金化に制約が生じるリスクのことです。
一般に収益物件の売却は数ヵ月単位の時間を要することから、不動産投資の流動性リスクは高いとされています。
特に、地方や築古の収益物件、あるいは違法建築・既存不適格などに該当する収益物件には注意を払うべきでしょう。
では、こうした資産運用の前提を整理したうえで、改めて「不動産投資は、ミドルリスク・ミドルリターンなのか?」を考えてみましょう。
資産運用における代表的なリスクのうち、主として不動産投資に影響するのは「価格変動リスク」「流動性リスク」で、「信用リスク」「為替リスク」「カントリーリスク」は実質的に影響がないケースも少なくないでしょう。
考慮すべきリスク要素が少ないこと、そして価格変動リスクについても、定期預金のように(条件付きとはいえ)元本保証されるわけではないものの、株式投資のように極端な変動が少ないことを考えれば、なるほど「ミドルリスク・ミドルリターン」という表現は妥当なものといえます。
但し、流動性リスクが高い点にはくれぐれも注意が必要で、特に、手元資金に余裕がない方や、突発的に纏まった金が必要になる可能性の高い方などは、慎重に他の資産運用と比較検討すべきでしょう。
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