資産運用
最近、にわかに不動産投資家の間で話題を集めている法改正があります。
それは不動産登記法の改正。
不動産取引、とりわけ不動産投資などの収益不動産の売買において、登記はとても重要な意味を持つことは広く知られています。
引き渡しを受けても、登記簿に正しく所有権移転が記されるまでは安心できないと考える投資家の方もいらっしゃることでしょう。
その一方、無事に登記簿に所有権移転が記されると、その後は登記内容に意識を向ける機会はほとんどないため、常日頃から不動産登記に高い関心を寄せる投資家の方は少ないかもしれません。
しかし、今回の法改正は、既に所有権移転登記を終えた収益不動産に関しても影響が及ぶうえ、新たに罰則の規定まで追加されており、「知らなかった」ではすまされない内容となっています。
本稿では、不動産投資家の目線から確実に押さえておきたい法改正のポイントについて、おさらいや過去の経緯を交えながら分かりやすく説明していきます。
「登記」とは、取引において第三者に不測の損害を与えることを回避するため、一定事項に関する権利義務等を所定の帳簿に登録し、これを客観的に証明する制度のことです。
少し分かりにくいので本稿のテーマである不動産登記の具体例を挙げると、
・取引対象となる土地や建物の詳細(地番・面積・建築年等)
・売買や相続等による、現在および過去の当該土地・建物の所有者
・当該土地や建物に設定された抵当権の有無とその内容
など不動産取引の前提となる基礎情報が、不動産の登記簿には記されています。
登記内容は第三者が自由に閲覧できますので、不動産取引の実務では、事前に法務局に登記簿の請求を行い、売主がその不動産の真正な所有者であることのほか、想定外の権利義務関係がないことや面積・築年数といった重要事項を確認するケースが一般的です。
また、冒頭でも触れましたが、不動産投資のような第三者との不動産売買において、不動産登記は買主側の権利保全にとりわけ重要な役割を果たします。
不動産登記には、第三者に対してその不動産に関する権利義務を主張できる対抗要件を備える効果があるためです。(これを登記の「対抗力」といいます)
不動産投資の実務では、売主AさんからBさんが不動産を取得した際、通常は引き渡しと同時に所有権移転登記の申請を行います。(一般的には、引き渡しの現場に同席した司法書士に依頼します)
では、仮にBさんがすぐに所有権移転登記を行わなかったら、どうなるでしょうか?
残念ながら不動産売買をする人のなかには悪い人もいて、例えば、売主AさんがBさんに売却した後、こっそりCさんにも同じ不動産を二重で売却するようなこともあります。
この場合、契約日や引き渡し日の先後ではなく、原則として所有権移転登記の先後によって当該不動産に関する対抗要件が備わるため、Bさんが所有権移転登記をしない状態で、先にCさんが所有権移転登記を終えた場合、BさんはCさんに対して所有権を主張できないことになってしまうのです。
不動産投資の取引では双方初対面で素性が分からないケースが大半でしょうから、万一にもこうした事態に巻き込まれないよう、引き渡しと同時に所有権移転の登記を行うことが、半ば商慣習となっているわけです。
ここまでのご説明で、不動産登記の重要性を改めてご理解いただけたと思います。
しかし、より広く不動産の権利義務移転の全般に視野を移すと、実は全ての局面で不動産登記が必ずしも徹底されているわけではありません。
不動産投資における売買では、前述したように買主の権利保全のために遅滞なく登記を行う理由がありましたが、そうではない(敢えて登記を行う理由のない)ケースも存在するからです。
たとえば、望まない土地の相続です。
都心部の土地などであれば、賃貸収入を得たり、売却して現金化したりという道もありますが、地方の市場価値の低い土地のなかには、実質的な利用価値がなく、売却しようにも買い手が現れないこともあります。
その一方、不動産を相続すると、固定資産税などの税負担や当該土地・建物の管理責任が生じることから、敢えて土地の名義を書き換えないケースも少なくないのです。
こうした事情により、「不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地」「所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地」は年々増加しています。
しかも、当該不動産の所有者が不明な間にさらに相続等が生じてしまうと、さらに実態把握は困難となっていきます。(年を追うほどに権利義務関係の解明が難しくなるのです)
こうした問題は、「所有者不明土地問題」と呼ばれ、法改正が待ったなしの状況にあったわけです。
このような経緯から、不動産登記に関する法改正が決まりました。
所有者不明土地問題は「登記が義務(強制)ではなく任意であったこと」が根本原因にあり、より直接的には「相続登記の未了」「住所変更登記の未了」の2つによって引き起こされていると分析し、法務省は以下の対応指針を打ち出しました。
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<所有者不明土地問題に対する対応指針>
① 相続登記未了に対して、不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付ける(正当な理由のない申請漏れには過料の罰則あり)。
② 住所変更登記の未了に対して、所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務付ける(正当な理由のない申請漏れには過料の罰則あり)。
③ 但し、相続登記・住所変更登記の手続の簡素化・合理化を合わせて整備する
【出典】
法務省『所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し』より抜粋・加工
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このうち、①については、相続をきっかけに不動産投資を行う方は多くはないでしょうし、前述したように不動産投資の実務では売買(引き渡し)と同時に所有権移転登記を行うケースが大半ですから、その意味でも参考程度という方が多いと思います。
その一方、②の住所変更については、多くの不動産投資家が該当する可能性があります。
「それぞれの収益不動産を購入した時点の住所」と「現在の住所」が異なると対象となってしまうため、不動産投資歴が長い方ほど、そして所有する収益不動産の数が多い方ほど、影響を受ける可能性は高くなります。
但し、③に関して、個人(自然人)・法人ごとに以下のような手続きの簡素化・合理化が予定されているようです。
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<住所未変更対応への新たな方策の仕組み>
(個人)
① 登記申請の際には、氏名・住所のほか、生年月日等の「検索用情報」の申出を行う。
② 登記官が、検索用情報等を用いて住民基本台帳ネットワークシステムに対して照会し、所有権の登記名義人の氏名・住所等の異動情報を取得する。
③ 登記官が、取得した情報に基づき、登記名義人に住所等の変更の登記をすることについて確認をとった上で、変更の登記をする(非課税)。
(法人)
① 法人が所有権の登記名義人となっている不動産について、会社法人等番号を登記事項に追加する。
② 商業・法人登記システムから不動産登記システムに対し、名称や住所を変更した法人の情報を通知する。
③ 取得した情報に基づき、登記官が変更の登記をする(非課税)。
【出典】
法務省民事局 『所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(令和3年12月)』より抜粋
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不動産投資家としては、この新たな方策が使い勝手の良いものになることを願いつつ、法改正の動向を注視していく必要があることを押さえておきましょう。
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