節税
足元で急速に進む円安・インフレ対策として、改めてiDeCo(以下、「イデコ」)を検討する方が増えているようです。
イデコとは、確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金の制度(個人型確定拠出年金)で、加入者が毎月一定金額を積み立て、投資信託など自分で決めた方法で運用するものです。
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【参考】国民年金基金連合会主催 iDeCo公式サイト
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年金制度の1つであるイデコを、投資や資産運用と捉えることには議論もありますが、掛金、運用益、そして給付を受け取るときにも税制上の優遇があることから、上手に活用できれば節税による中長期での家計改善効果が期待できます。
イデコは、2022年4月・5月にも加入要件の拡大などが実施されたばかりですが、その直後にも、岸田政権の掲げる「新しい資本主義」実行計画において、イデコの更なる拡充(加入対象年齢を現在の65歳未満→65歳以上に拡大)の検討が報道されたのは記憶に新しいところです。
足元の厳しい市場環境や将来の制度拡充への期待から、今後ますますイデコ加入を検討する方は増えていくことと思われます。
そんなイデコですが、実は長年積み立てたお金を受け取る際、ある税制ルールに注意しないと、せっかくの節税効果が小さくなってしまうことは意外と知られていません。
本稿では、イデコの節税効果をしっかり享受できるよう、イデコに関する税制の基本ルールを分かりやすくご説明していきます。
まずは、イデコの基本となる3つの税制上の優遇について、簡単におさらいしておきましょう。
1つ目は、「掛金全額が所得控除の対象となること」です。
具体的な節税効果は、毎月の掛金の金額と加入者の税率等により異なりますが、たとえば毎月の掛金が1万円、所得税・住民税合算税率が20%のケースでは、年間2.4万円(1万円×12ヵ月×20%)が節税できる計算になります。
2つ目は、「運用益が非課税で再投資されること」です。
通常、金融商品を運用すると、運用益に対して源泉分離課税20.315%が課税されますが、イデコではこれが非課税で再投資されます。
そして3つ目は、「給付を受け取るときに控除を受けられること」です。
イデコでは積み立てたお金を受け取る際、以下の3つから受取方法を選択することになります。
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<イデコの受取方法>
① 年金として分割で受け取る方法(雑所得として課税)
② 一時金として受け取る方法(退職所得として課税)
③ 年金と一時金を併用して受け取る方法
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それぞれの特徴については後述しますが、①で受け取る場合には雑所得として「公的年金等控除」が、②で受け取る場合には退職所得として「退職所得控除」がそれぞれ対象となり、受け取り方によって節税効果に違いが出ることとなります。(③の場合は、それぞれの割合に応じて控除を受けることになります)
イデコの受取方法を「①年金として分割して受け取る」場合、雑所得となり他の公的年金等の収入の合算額に応じて公的年金等控除の対象となります。
公的年金等控除の計算方法は以下の通りで、公的年金等の収入の合計額が65歳未満だと60万円まで、65歳以上だと110万円までは税金が課税されないこととなっています。(合計所得額が1,000万円超の場合は控除額が異なりますので国税庁のホームページ等を参照ください)
【出典】国税庁ホームページ 『No.1600 公的年金等の課税関係』より
たとえば、70歳、合計所得金額が500万円、公的年金等の収入金額が350万円の方の場合、公的年金等控除を適用後の雑所得は235万円(350万円×0.75-27.5万円)となります。
また、雑所得は、他の所得(給与所得等)と合算して総合課税されるため、イデコ以外の公的年金や受取時点の給与所得等が大きい方ほど、実際の課税額は大きくなる傾向にあることも、節税効果を最大化するうえでは大事なポイントとなります。
続いて、イデコの受取方法を「②一時金として受け取る」場合を考えていきましょう。
この場合には、退職所得として退職所得控除の対象となり、先ほどの雑所得とは控除額の計算式も、その後の課税額の計算式も全く異なることとなります。
退職所得控除の計算方法は以下の通りです。
【出典】国税庁ホームページ 『No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)』より
イデコの場合は「勤続年数=イデコの加入年数」として計算します。
たとえば、勤続年数(=加入年数)30年の方の場合、退職所得控除額は1,500万円(800万円+70万円×(30年-20年))となります。
加入者の状況にもよりますが、一般的には「①年金として分割して受け取る」場合よりも控除額は大きくなるケースが多いでしょう。
また、退職所得は、原則として退職所得控除後の金額に1/2を乗じて計算するため、一時金の金額が退職所得控除を超える場合でも、実際の課税額はより小さくなります。(1/2ルールには除外条件もあります。詳しくは国税庁のホームページ等を参照ください)
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<退職所得の計算>
(収入金額(源泉徴収される前の金額)-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額
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年金形式で分割して受け取るのがよいのか、一時金として受け取る方がよいのかは、加入者それぞれで判断の分かれるところですが、イデコの特徴である節税効果を最大化するうえでは、こうした控除額・課税額を試算して受取方法を比較検討することが重要となります。
最後に、イデコの受取方法を「②一時金として受け取る」場合の注意点をご説明します。
それは、イデコ以外の退職所得(たとえば勤務先からの退職金)がある場合です。
勤務先からの退職金に関しては直近4年間、イデコを含む確定拠出年金を一時金として受け取る場合は直近19年間(※)の間に、他の退職金等がある場合には退職所得控除の計算に調整が入ることには十分注意してください。
(※)従来は14年でしたが、令和4年4月から19年に期間が拡大しました。
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・・・(前略)・・・なお、本年分の退職手当等が前年以前に支払われた退職手当等の勤続期間を通算して計算されている場合や前年以前4年間(確定拠出年金の老齢給付金を受給した年分は前年以前14年間(令和4年4月1日以後に支払を受けるべきものは前年以前19年間))に他の支払者から支払われた退職手当等がある場合には、本年分の退職手当等の勤続期間と前年以前に支払われた退職手当等の勤続期間とが重複する期間の年数(1年未満の端数は切り捨てます。)に基づき計算した退職所得控除相当額を控除した残額が退職所得控除額となります。
【出典】国税庁ホームページ 『No.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき』より抜粋
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これをイデコの一時金受け取りと勤務先からの退職金支給のケースに当てはめて考えてみましょう。
たとえば、60歳でイデコを一時金として受け取り、65歳で勤務先からの退職金を受け取る場合、退職金の受取日より4年以内に他の退職金等の受け取りはないため、退職所得控除への影響はありません。
逆に、60歳で勤務先からの退職金を受け取り、65歳でイデコを一時金として受け取る場合、イデコの受取日より19年以内に他の退職金の受け取りがあると判定され、退職所得控除に調整が入ってしまいます。
現実問題として、イデコの受け取りと勤務先からの退職金支給は、時期が近いことも多いでしょうから、受け取りの順序やタイミングに注意しないとせっかくの節税効果が小さくなってしまいかねないということですね。
いかがでしたでしょうか。
イデコは節税による家計改善を期待できる有用な制度ではありますが、このように関連する税制上のルールを知っているかどうかで、その節税効果は大きく変わることもあります。
また、本稿の内容は2022年6月現在の情報に基づき書かれています。
皆さんが実際にイデコを受け取る時期までには更なる税制改正が入るでしょうから、しっかりと最新の税制ルールを理解し、無駄のない資産設計を心がけたいものですね。
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