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近年、インターネットやSNSによる有名人・著名人らへの悪質な誹謗中傷が深刻化し、社会問題化されています。
中傷被害を受けた方のなかには、若くして自ら命を絶つまでに追い込まれてしまった方、心身の健康を著しく害してしまった方もおり、倫理面のみならず、法規制の面からも対策が急務となっていました。
そうした経緯から、2022年5月に、プロバイダ責任制限法の改正が公布されたのは記憶に新しいところ。
同法の改正では、「プロバイダ等の損害賠償責任の制限」「発信者情報の開示請求」が明文化されており、発信者の特定を容易化することで、悪質な誹謗中傷の抑止に一定の効果が期待されています。
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<参考>
総務省ホームページ『インターネット上の違法・有害情報に対する対応(プロバイダ責任制限法)』
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そして、2022年7月7日、刑法改正により侮辱罪の法定刑の引き上げ(=厳罰化)が施行されました。
同法改正と改正プロバイダ責任制限法を合わせることで、インターネットやSNSなどで誹謗中傷を行った者を早期に特定し、悪質な行為に対しては厳罰に処するといった一応の法体制がようやく整った格好です。
果たして、悪質な誹謗中傷への抑止効果は期待できるのでしょうか。
本稿では、その要の一つとなる侮辱罪の厳罰化について、分かりやすく説明していきます。
様々な報道等により、なんとなく悪質な誹謗中傷への罰則が強化されたことはご存じの方も多いかと思いますが、そうはいっても“侮辱罪の厳罰化”と聞いてもピンと来ない方もまた、多いのではないでしょうか。
侮辱罪とは、刑法231条に規定された罪状の一つで、「事実の摘示をせずに、公然と、人の社会的評価を下げる行為を処罰する」ことが定められています。
少し難しい表現でしたが、要は、
●「バカだ」「能力がない」「頭がおかしい」などといった、特定の事実ではない内容で、
●その内容が他者へ広がっていく可能性のある方法によって、
●その人の社会的評価を下げる行為
が侮辱罪に該当するとイメージしてください。
インターネットやSNSは不特定多数の人が閲覧可能ですから、そこで事実の適示のない誹謗中傷を行えば、侮辱罪が成立する可能性があるということです。
また、侮辱罪の厳罰化を考えるうえでは、同種の罪状である名誉棄損罪との関係も知っておくと、いっそう理解が深まります。
どちらの罪も、人の名誉を傷つける行為を処罰するという意味では類似していますが、名誉棄損罪は、「事実の摘示によって、公然と、人の社会的評価を下げる行為を処罰する」内容であると、刑法230条に規定されています。
たとえば、「あの人は人でなしだ」といったような事実の適示を伴わない中傷に対しては侮辱罪が、「あの人は不倫をしている」といった事実の適示による中傷に対しては名誉棄損罪が該当するとイメージすれば分かりやすいでしょう。(ここでの「事実の適示」とは、必ずしも真実である必要はなく、根も葉もない嘘であっても、名誉棄損罪に該当する場合があります)
従来は、事実の適示を伴う分、名誉棄損罪の方が名誉を傷つける程度が大きいとの考え方から、両者の法定刑には大きな差異が設けられていました。
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<侮辱罪の法定刑(改正前)>
・拘留又は科料
・時効は1年間
<名誉棄損罪の法定刑>
・3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金
・時効は3年間
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しかし、昨今のインターネットやSNSによる悪質な誹謗中傷の実態を鑑みるに、事実の適示の有無により法定刑に大きな差異を設けることは相当ではないとして、侮辱罪の法定刑が名誉棄損罪に準じる形で引き上げられた、という背景です。
侮辱罪の改正前後の比較は以下のとおりですが、前述した改正プロバイダ責任制限法と合わせて運用されることにより、悪質な誹謗中傷の抑止が期待されています。
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<参考>
【出典】法務省ホームページ『侮辱罪の法定刑の引上げ Q&A』より抜粋
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なお、侮辱罪改正に対しては、侮辱罪は処罰の対象が広いため、政治的意見などの正当な論評も萎縮させ、表現の自由をおびやかすおそれがあるとの指摘も挙がっています。
これに対しては、施行から3年が経過した時点で検証を行うとの附則が追加されており、まだまだ国や有識者たちも手探りの段階といったところなのでしょう。
いかがでしょうか。
インターネットやSNSはとても便利なツールである一方、その影響力はときに想像を大きく超えてしまうこともあります。
悪質な誹謗中傷を抑止する対策は“待ったなし“の状況であり、今回の改正内容が完璧でないとしても、まずは一歩目を踏み出せたのではないかと評価しています。
また、今回の侮辱罪改正は刑事の話ですが、当然ながら悪質な誹謗中傷行為に対しては、民事上の不法行為にもとづく損害賠償請求の対象にもなりえます。(実際、名誉棄損行為のみならず、侮辱行為に対して損害賠償(慰謝料)の請求を認めた判例もあります)
悪意ある誹謗中傷がNGであることは言うまでもありませんが、悪気ない一言や、ちょっとした表現であっても、それが誰かの名誉を傷付ける内容となっていないか、特にインターネットやSNSを利用する際には十分に注意する必要があることを、(著者も含めて)今一度認識しておくようにしましょう。
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