節税
「不動産投資では、法人化して節税しないと損だと聞いたのですが本当でしょうか?」
FPであり、現役の不動産投資家もある著者のところには、時折こうした相談が寄せられます。
先に結論をいえば、ケースバイケースです。
たしかに、その方の状況(属性・年収等)や投資規模によっては、不動産投資(不動産賃貸業)を法人化することによって税制面で有利になることはありますが、必ずしも全ての人が当てはまるわけではありません。(逆に法人化によって税制面で不利になることもあります)
その一方、法人設立には必ず費用と手間がかかりますし、設立後にも毎年の複式簿記での帳簿付けや決算書作成といった作業が必ず発生してしまいます。(実務的には有料会計ソフトを導入して顧問税理士を付けるなどで、毎年十数万円以上の維持費がかかるケースが多いものです)
法人化による税制面のメリットはケースバイケースでありながら、法人化によるコストや面倒は必ず発生してしまうため、判断を誤ると節税どころか、デメリットばかりが生じる事態を招きかねないのです。
本稿では、不動産投資の法人化による“節税効果”について、その仕組みの基本を分かりやすく説明していきます。
法人化の節税効果を理解するには、比較対象となる個人(個人事業主)で不動産投資を行った場合の課税ルールを知ることが第一歩です。
不動産投資に対する税金は、その利益に対して課されるわけですが、「毎年の家賃収入等による利益」と「収益物件の売却による利益」では、個人の場合には課税ルールが異なります。
前者の「毎年の家賃収入等による利益」に対しては「不動産所得」としての課税、後者の「収益物件の売却による利益」に対しては「譲渡所得」としての課税がルールです。
このうち、個人で不動産投資を行う場合に往々として問題になるのは、前者の不動産所得です。
不動産所得は、「①給与所得などの他の所得と合算して税率を決める総合課税制度」「②その合算した所得金額に応じて税率が高くなる超過累進課税制度」という、2つの厄介な課税ルールを併せ持っているためです。
以下は国税庁ホームページに掲載されている所得税率の速算表です。
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【出典】国税庁ホームページ 『No.2260 所得税の税率』より抜粋
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ここでの「課税される所得金額」は不動産所得だけではなく、給与所得など総合課税される他の所得を合算した金額です。
表中央の「税率」を見ると、所得金額に応じて5%→最大45%まで跳ね上がる仕組みであることが見て取れますね。(これに加えて、10%程度の住民税も別途課税されます)
では、不動産所得の持つ、この2つの厄介な課税ルールが意味するところは何でしょうか?
不動産投資でいえば、「不動産投資の利益の大小と税額(税率)の大小が連動しない」ということに尽きます。
たとえば、給与所得200万円(控除後)の人が年間100万円の不動産所得(利益)を得た場合、その税率は10%です。
これに対して、給与所得2,000万円(控除後)の人が同じ年間100万円の不動産所得(利益)を得た場合、なんと税率は40%となってしまいます。
つまり、不動産所得が同じであったとしても、給与所得など他の所得が大きい人ほど、税額(税率)が理不尽に跳ね上がってしまう仕組みというわけです。
さらに具合の悪いことに、給与所得の計算における給与所得控除は、令和2年以降、給与収入850万円超の195万円で頭打ちとなりました。
不動産投資を行う方のなかには、本業が会社員・公務員という方も沢山いらっしゃいますが、本業の収入(給与所得)が高い方ほど、より税制面で割を食ってしまう仕組みになってしまったのです。
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<給与所得控除額(令和2年分以降)>
【出典】国税庁ホームページ 『No.1410 給与所得控除』より抜粋
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では、不動産投資(不動産賃貸業)を法人化すると、この厄介な課税ルールはどう変わるでしょうか。
法人化の方法もいくつかあるのですが、本稿では同じ収益物件を個人が所有する場合と、その個人が設立した法人が所有する場合で比較検討します。
細かい差異は沢山ありますが、最初に理解すべき違いは、「①法人の利益と個人の利益が別々に計算されるということ」「②最高税率が法人の方が低いこと」の2点です。
①について、当然ながら、法人税は設立者個人の収入と合算して計算したりはしません。
本業の収入(給与所得)の高い人ほど苦しめられた総合課税の制約から解放されるメリットは大きいものですし、そうでない方にとっても不動産投資の規模拡大によって給与所得等の税率に影響が及んでしまうリスクを回避できるメリットがあります。
②について、個人の場合、所得税・住民税合わせた合算税率は最大で約55%でしたが、法人税の実効税率は概ね20%~35%程度です。(法人の規模や利益等により多少幅があります)
一定以上の給与所得がある人や将来的に不動産投資の規模拡大を考える人であれば、極端な超過累進課税の制約からも解放されるメリットがあるといえますね。
いかがでしょうか。
このように、不動産投資で法人化を検討する際、税制面でメリットを感じやすいのは、既に不動産投資以外(給与所得等)で高収入のある方や、これから不動産投資の規模を積極的に拡大したい人だといえます。
逆に、不動産投資以外(給与所得等)の収入が大きくない方で、少しずつ不動産投資の規模拡大を図ろうとする方にとっては、法人化することでかえって税率が上がってしまうこともあります。
また、冒頭に書いたように、法人設立には必ずコストや面倒がかかり、設立後も複式簿記での帳簿付けや決算書作成の手間とコストが毎年発生することは忘れてはなりません。
法人化により多少の節税効果が見込めるとしても、こうしたコストや面倒を天秤にかけると、急いで法人化を検討するべき人は意外と少ないのかもしれません。
もちろん、本稿でご説明した以外にも、不動産投資の法人化によるメリット・デメリットは沢山あります。
レアルメディアでも追い追いご紹介していくつもりですが、本稿の内容が法人化の検討にあたって一つの参考となれば幸いです。
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