節税
皆さんは、「副業による節税」というフレーズを聞いたことがあるでしょうか?
一般論として、会社員・公務員などを職業とする個人の方(以下、「サラリーマン」とします)は、法人や個人事業主に比べて節税の余地が小さく、同じ収入に対して税の負担感が強いとされています。
そんなサラリーマンに向けて、近年注目を集めているのが「副業による節税」です。
但し、ここでの副業とは、サラリーマンを続けながら、パート・アルバイトなど別の給与を得るというものではありません。
たとえば、ネットストアを立ち上げて物販で利益を上げたり、ライターとして記事を書いて原稿料を受け取ったり・・・、といった給与以外の収入を得るものを指しています。
副業をスタートしてすぐに安定した利益が出るならベストですが、高額な初期投資が必要なケースや軌道に乗るまで時間を要するケース、あるいはしばらく赤字が続いてしまうケースもあることでしょう。
やむを得ず副業で赤字が出た場合、その赤字(損失)を事業所得として青色申告することで、サラリーマンの給与収入(給与所得)と副業の損失(事業所得)を損益通算して相殺し、税還付を受けることで節税となる可能性があり、これが「副業による節税」の仕組みとなります。
他に節税余地の小さいサラリーマンと相性の良い仕組みであることに加えて、昨今の新型コロナウィルス感染拡大による給与減少やリモートワーク推進といった環境要因も重なり、「副業による節税」は、サラリーマンの副業推進、さらには将来的な起業・独立を後押しする効果もあると評価されていました。
ところが、先日、国税庁がこの「副業による節税」に待ったをかける動きが報道されました。
まだパブリックコメントの段階ではありますが、これから副業を考えている方、最近副業を始めた方には大変気になる動きかと思いますので、本稿で分かりやすく説明していきます。
本題に入る前に、大事なことをお伝えしておきます。
いきなり出鼻をくじくようではありますが、「副業による節税」は、元々税法上グレーな部分があることも指摘されていました。
先ほどご説明したように、「副業による節税」では、その副業の利益・損失を「事業所得」として申告する必要がありますが、副業の利益・損失であれば当然に「事業所得」とできるわけではないのです。
国税庁では、「事業所得」および「事業」について以下のように定義しています。
---------------------------------------------------
<事業所得とは>
事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得をいいます。
ただし、 不動産の貸付けや山林の譲渡による所得は事業所得ではなく、原則として不動産所得や山林所得になります。
<事業とは>
「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡等を繰り返し、継続、かつ、独立して行うことをいいます。
【出典】国税庁ホームページ タックスアンサー『No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)』 『No.6109 事業者が事業として行うものとは』より引用
---------------------------------------------------
上記に該当しない場合、その副業の利益・損失は、原則として「雑所得」として申告することになります。
雑所得の場合、給与所得との損益通算や青色申告が使えないため、実質的に「副業による節税」は成り立たなくなります。
そのため、なんとか当該副業の利益・損失を「事業所得」として申告したくなるわけですが、ここに税法上グレーな部分が入り込んできます。
前述のとおり、事業所得の定義について、国税庁からは具体的な基準が示されていません。
過去の判例(※)においても、『自己の危険と計算において独立して行う業務であり、営利性・有償性を有し、かつ、反復継続して業務を遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められるもの』『「事業」といえる程度の規模・態様においてなされる活動といえるかどうかは、自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無、その者の精神的肉体的労務の投入の有無、人的・物的設備の有無、その者の職業・経験及び社会的地位等を総合的に勘案して判断すべきである』という表現に留まっています。
---------------------------------------------------
(※)参考
国税不服審判所 平成26年9月1日裁決
---------------------------------------------------
結局のところ、事業所得と雑所得の判定は、総合的判断という言葉に集約されており、具体的な基準は存在しないのです。(たとえば「反復継続」について、年間に何回繰り返せばよいのか、何日間続ければよいのかといった、具体的な基準はありません)
この判定基準の曖昧さゆえ、端からはとても事業には思えない副業を事業所得として申告する方もいれば、真っ当な事業性を有する副業であっても税務指摘リスクを回避するため雑所得で申告する方もいる、といった状況となっています。
こうした背景を受けて、国税庁から2022年8月1日にパブリックコメント『「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募手続の実施について』(※)が発表されました。
---------------------------------------------------
(※)参考
e-Govパブリックコメント 案件番号410040064
---------------------------------------------------
改正案のポイントとしては、『事業所得と業務に係る雑所得の判定について、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定すること、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が 300 万円を超えない場合には、特に反証がない限り、業務に係る雑所得と取り扱うこととします』という点です。
これを本稿のテーマである、サラリーマンの「副業による節税」に当てはめると、当該副業に事業性をなんらかで証明できたとしても、「収入金額300万円以下であれば雑所得」という基準が追加されると捉えることができます。(なお、300万円とは売上高であり、売上高から経費を差し引いた利益ではありません)
当然、この方針変更には賛否あるとは思いますが、これまで判例含めて曖昧だった判定基準に、具体的な数値基準が追加されるとすれば、著者個人としては良い傾向だと感じます。
もっとも、今の改正案のままでは、売上高の大きくなりやすい業態に有利であるなど、新たに別の問題も生じてきそうです。
たとえば、副業の業態が小売り事業であれば、その売上が300万円を超えることは比較的容易でしょうが、副業によるコンサルタントやライターなどの手数料ビジネスで300万円を超えるのはなかなか厳しいでしょう。
パブリックコメントを経て、より良い改正に繋がることを期待したいところです。
Real Media メールマガジン登録完了
不定期(月1回程度)にてお役立ち情報のお知らせを
メルマガにてお送りさせていただきます
未来に向けての資産運用にご活用くださいませ。