資産運用
本稿を執筆している2022年8月末現在、様々な食料品や生活品等の値上げが止まりません。
一部メディア等では「値上げラッシュ」とも表現されますが、背景にあるのは、かねてからの原油高、諸外国における需要増、ロシアのウクライナ侵攻による需給バランス・物流の乱れ、そして円安など様々な要因です。
これらが複合的に絡み合った結果が今の値上げラッシュであり、少なくとも短期的には値上げの収束は見込めないであろうとの見方が有力となっています。
ところで、こうした値上げ報道を見て、「そもそも、日本は物価の値上げ≒インフレを目標に掲げていたような・・・?」と疑問に感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
たしかに、2013年1月、日本の中央銀行である日本銀行は、インフレ目標政策の導入を決定した経緯があります。
特に、日本銀行総裁に黒田東彦氏が就任し、第2次安倍政権が発足した以降、日本銀行はインフレ目標2%の達成に向けて動きを本格化させます。
「異次元の金融緩和」「黒田バズーカ」といった言葉に聞き覚えのある方も多いことでしょう。
では、昨今の値上げラッシュは、日本銀行(あるいは日本政府)が狙って引き起こしたものかといえば、決してそうではないようです。
むしろ、日本銀行・日本政府の目指していたインフレと、昨今の値上げラッシュによるインフレでは、その意味合いが本質的に異なることに、この問題の難しさがあります。
本稿では、「なぜ日本はインフレを目指しているのか?」「目指していたインフレと、昨今の値上げラッシュでは何が違うのか」について、分かりやすく説明していきます。
まずは、なぜ日本がインフレを目指しているのかについて考えていきましょう。
インフレ(インフレーション)とは、モノやサービスの価格が上昇することを指します。
我々の日常生活では、なるべくならモノやサービスの価格が上がってほしくない、もっと言えば価格が下がってほしいとさえ考えてしまいますが、それでは経済は回りません。
「モノやサービスの価格が上げられない」→「事業者の利益が上がらない」→「雇用拡大や賃上げができない」→「お金に余裕のない家計が増える」→「モノやサービスが売れない」→「いつまでも値上げできない」・・・といった悪い経済循環から抜け出せなくなってしまうのです。
バブル崩壊後の日本はまさにこの状況で、モノやサービスの価格が下がり続けるデフレ(デフレーション)から抜け出せなくなっていました。
「物価の安定」を使命とする日本銀行にとって(※)、デフレからの脱却は必達の課題であったわけです。
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<参考>日本銀行の目的
・日本銀行の目的を、「我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うこと」および「銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資すること」と規定しています。
・日本銀行が通貨及び金融の調節を行うに当たっての理念として、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」を掲げています。
【出典】日本銀行ホームページ内『日本銀行の概要』より抜粋・下線追記
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長引くデフレから脱却し、良い経済循環に転換するための目安が、インフレ目標2%でした。
「モノやサービスの価格が上げられる」→「事業者の利益が上がる」→「雇用拡大や賃上げができる」→「お金に余裕のある家計が増える」→「モノやサービスが売れる」→「さらに値上げできない」・・・といったサイクルを作るためには、ある程度の物価上昇を許容しなければならず、日本銀行の考えるその数値目標が“2%”だったのです。
なお、“2%”の数値目標については、これまでに何度か見直しの議論もありましたが、FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)やECB(ヨーロッパ中央銀行)も同じく2%のインフレ目標を掲げていることも踏まえ、現時点では変更されていません。
では、2013年以降のインフレ率はどう推移してきたのでしょうか。
物価を計る指標である「消費者物価指数(CPI)」よる観測において、つい最近までは、目標の“2%”には遠く及ばない状況が続いていました。
これほど長期に渡って目標未達が続く要因には様々な分析がありますが、「日本銀行による金融緩和の効果を、消費増税が打ち消してしまった」との見方が多いようです。(この分析には賛否あり、深掘りには高い専門性が必要となるため、本稿ではこれ以上は言及しません)
ところが、2022年4月の「全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)」が、前年同月比で2.1%上昇したことが報じられました。
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<参考>
総務省 統計局「消費者物価指数(CPI)」
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これにより、名目的には悲願であったインフレ率2%を達成したことになりますが、これは日本銀行・日本政府の目指したインフレ達成とは程遠いものでした。
日本が目指したのは、先ほど示したような経済の好循環に繋がる“ディマンドプル型(需要拡大型)”のインフレです。
しかし、22年4月のインフレ率の実態は、原油高・材料高や円安を背景とした、いわば“コストプッシュ型”のインフレで、これでは物価が上がっただけで、事業者の利益が増えることもなく、雇用拡大・賃上げにも繋がりません。
今のインフレは、いわゆる「悪いインフレ」または「スタグフレーション」の状況に近く、原油高・材料高が止められないのであれば、金融緩和を見直して(日米金利差を小さくして)せめて円安だけでも止めるべきでは、といった本末転倒な議論まで巻き起こしてしまっている状況です。
こうした現状を受けて、6月に日本銀行の安達誠司審議委員が、「エネルギー価格の上昇などの影響を除いた実力ベースのインフレ率は1.0%程度にとどまる」「実力ベースの物価上昇率が安定的に2%付近で推移するよう運営するべき」「賃金上昇を伴う2%目標の達成を目指すには、大規模緩和の縮小に転じるのは時期尚早」と発言したとの報道がありました。
著者個人としても、現時点での金融緩和の方針転換はあり得ないと思っていましたが、こうした当たり前の発言について大々的に報じられてしまうあたりからも、日本銀行への風当たりの強さを感じずにはいられません。
来月以降も、様々な食品・日用品でコストプッシュ型の値上げラッシュが続きます。
果たして、目指すべきインフレに方向転換を図ることかできるのか。
いち庶民、いち国民として、一日も早くその日が来ることを願います。
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