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先日、厚生労働省から『2021年 国民生活基礎調査の概況』の結果の概要が公表されました。
国民生活基礎調査とは、厚生労働行政の企画及び立案に必要な基礎資料を得ることを目的に、保健、医療、福祉、年金、所得等国民生活の基礎的事項を調査するもので、調査客体は全国の世帯及び世帯員から一定要件において無作為に抽出されます。
また、1986年よりほぼ毎年実施されているため、過去からの連続性を観測するうえでも参考になるデータです。
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<参考>厚生労働省『調査の概要』
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今回公表されたデータのうち、特に注目したいのは、「世帯所得」と「生活意識」です。
巷では、「日本国民の所得はバブル崩壊後ずっと増えていない」「高齢者世帯はお金持ちが多い」などと言われますが、実際にデータで確認するとどうなのでしょうか?
本稿では、『2021年 国民生活基礎調査の概況』の結果について、「世帯所得」「生活意識」に関連する部分を中心に、分かりやすく説明していきます。
まずは、この調査結果における平均所得金額を見てみましょう。
2020(令和2)年の1世帯当たり平均所得金額は、「全世帯」が 564 万 3 千円、「高齢者世帯」が 332 万 9 千円、「高齢者世帯以外の世帯」が 685 万 9 千円、「児童のいる世帯」が 813 万 5 千円となっており、1985年からの推移は以下のとおりです。
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【出典】厚生労働省ホームページ『II 各種世帯の所得等の状況』より
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「全世帯」を見てみると、やはりと言うべきか、平均所得金額はバブル崩壊後から微減傾向が続いており、日本国民の所得は増えていないことが分かります。
また、「児童のいる世帯」の世帯所得は相対的に高く、逆に「高齢者世帯」の世帯所得は相対的に低い傾向にあるようです。
先ほどは「平均値」を見ましたが、一般にこうした統計データを見るには「中央値」も重要です。
中央値とは、データを小さい順に並び変えた時に中央に出てくる数値のこと。
ご存じの方も多いかもしれませんが、「平均値」は、一般に一部の“外れ値”(他の数値から見て、極端に大きな値あるいは小さな値など)の影響を強く受けてしまう性質があります。
世帯年収のデータでも、殆どの世帯が数百万円~1,000万円前後だとしても、ごく僅かに数千万円、数億円の世帯年収が調査客体に混じることで平均値が釣り上ってしまうことが起こり得るため、平均値だけを見ると傾向を読み誤ることがあるというわけです。(統計データが世帯年収の場合、たとえばマイナス1億円という世帯年収はないため、上方に向けてのみバイアスがかかることになります)
今回の調査結果では、所得金額別世帯数の中央値は440万円、平均所得金額(564 万 3 千円)以下の割合は 61.5%でした。
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【出典】厚生労働省ホームページ『II 各種世帯の所得等の状況』より
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全世帯の平均所得金額564万円に対して、中央値440万円ということですから、やはり平均所得金額には、少なからず一部のお金持ち世帯の影響を受けていたことが推認できます。
感覚的に、平均所得金額564万円は高いと感じた方もいらっしゃったと思いますが、平均値と中央値の両方を見ることで、納得感を高めていただけたのではないでしょうか。
最後は、「生活意識」の状況を見てみましょう。
※この調査における「生活意識」とは、『調査日現在での暮らしの状況を総合的にみてどう感じているかの意識を、世帯主又は世帯を代表する者が5区分(「大変苦しい」「やや苦しい」「普通」「ややゆとりがある」「大変ゆとりがある」)から選択回答したもの』
と定義されています。
「生活意識」の推移をみると、2021年度には「苦しい」(「大変苦しい」と「やや苦しい」)の割合が 53.1%となっており、直近データとの比較では良化傾向にあることが読み取れます。
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【出典】厚生労働省ホームページ『II 各種世帯の所得等の状況』より
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しかし、著者が興味深いと感じたのは、次の「各種世帯の生活意識」です。
【出典】厚生労働省ホームページ『II 各種世帯の所得等の状況』より
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このデータによると、平均所得金額が比較的高いはずの「児童のいる世帯」が、最も「苦しい」(「大変苦しい」と「やや苦しい」)と感じており、なんと6割もの世帯が該当します。
「児童のいる世帯」は比較的に日常支出が大きく、物価高や消費増税の影響を大きく受けたこともあるでしょうし、所得税の超過累進課税制度や給与に応じた社会保険料負担によって、思ったほど“手残り”が残らないことも理由として考えられます。
冒頭で「高齢者世帯はお金持ちが多い」という風説を挙げましたが、世帯所得の絶対額ではなく、生活意識を含めて考えれば、あながち間違っていないのかもしれません。(もっとも、「高齢者世帯」も、「苦しい」と感じる割合は5割を超えており、決して楽観視できる結果ではありませんが・・・)
さて、本稿を執筆している22年9月中旬現在、物価高は当面続きそうな気配ですし、以前レアルメディアでも取り上げた「児童手当の特例給付の廃止」も、いよいよ10月から始まる予定です。
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<参考>ご存じでしたか?児童手当の特例給付廃止まであと1年です!
https://www.real-media.jp/article/466
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今後の市況を考えると、来年度の生活意識調査では、「児童のいる世帯」を中心に、さらに厳しい結果が出ることが予想されます。
政府には、この調査結果をしっかり分析し、ばら撒きなどではなく、真に有効な政策に活用してほしいものですね。
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