資産運用
不動産投資初心者の方から多いご質問の一つに、「原状回復工事」があります。
原状回復工事とは、入居者さんの退去時に、その方の入居前時点相当に部屋を回復する(修復する)工事のこと。
詳しくは後述しますが、工事費用が高額となることもあるうえ、度重なる法改正を経て、その大半を大家さん側、つまり投資家である皆さんが負担することも多く、不動産投資の成否を分ける重要な要素の一つとなっています。
ところが、不動産会社の営業マンらが作成してくれる収支シミュレーションには、この原状回復工事の費用は含まれていないことが多い模様。
そのためか、著者のところにも、「実際にはどんな工事をするのか?」「コストはどのくらい見込んでおけばよいのか?」といったご相談・ご質問が多く寄せられています。
本稿では、こうしたご不安をお持ちの方、特に不動産投資初心者の方に向けて、原状回復工事の基本を分かりやすくご説明していきます。
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一般に「原状回復工事」とは、特定の工事や作業を指すのではなく、次の入居者さんを迎えるために必要な工事一式を指します。
工事内容はケースバイケースではありますが、「ハウスクリーニング」「汚破損箇所の補修・交換」「設備の交換・修理」に大別して考えると分かりやすいため、本稿ではこの3つの観点からご説明していきます。
1つ目の「ハウスクリーニング」とは、専門業者による清掃作業のことです。
具体的には、専用の薬剤・用具などを使用した、キッチン・洗面トイレなどの水回り清掃、床・壁紙のクリーニング、室内・バルコニーの清掃などをイメージしてください。
部屋の広さや設備によって金額は変わりますが、たとえば東京圏のワンルーム(20㎡)であれば1回あたり2万円~3万円前後、エアコン清掃・換気扇清掃が必要であれば追加で1万円~2万円程度が相場です。
2つ目の「汚破損箇所の補修・交換」とは、たとえば床や壁紙の小さな穴を補修したり、汚れた壁紙を貼り替えたりする(交換する)作業のことです。
退去時点の室内の汚破損状況により金額のブレ幅は大きく、数千円~1万円程度で済むこともあれば、逆に東京圏のワンルームでも数十万円規模になることもあります。
3つ目の「設備の交換・修理」とは、故障や経年劣化した室内設備を交換・修理する作業のことです。
退去都度に必ず発生するものではありませんが、いざ発生すると「エアコン」「給湯器」などの交換費用は高額になりますし、古い物件であれば「木製キッチン」「洗面台」なども交換が必要になることもあります。
東京圏のワンルームでの金額相場は、エアコン交換は10万円前後、給湯器交換は10万円~30万円前後(給湯器の種類や付帯工事により幅が大きい)、木製キッチン・洗面台交換は10万円~20万円前後が目安です。
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次は、こうした工事費用を誰が負担するのかについて、ご説明していきましょう。
原状回復工事の費用負担は、2020年の民法改正により、『通常の使用によって生じた物件の損耗、経年劣化は借主が回復する義務を負わないこと』が改めて明示されました。(これまでも、いわゆる「東京ルール」などを根拠に多くの現場実務では同様の解釈が取られていました)
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<改正民法 第621条>
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。
ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
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これをそのまま適用すると、入居者さんの責めに帰すべき事由以外は全て大家さんの費用負担となりますが、同規定は任意規定であり、当事者の合意により異なる定めを置くことも可能と解釈されています。
たとえば東京圏のワンルーム賃貸の実務では、賃貸借契約書に「ハウスクリーニング」は入居者負担」とする特約を定めることが多く、ある程度の匙加減は残されているようです。
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<東京ワンルームでの費用負担事例>
●ハウスクリーニング
⇒基本は大家さん負担
※実務上は、特約で入居者さん負担とする場合が多い
●汚破損箇所の補修・交換
⇒経年劣化による汚破損や軽微な汚破損は大家さん負担
※タバコのヤニやペット、不注意によるカビなどの汚破損は入居者さん負担
●設備の交換・修理
⇒経年劣化による故障は大家さん負担
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収支シミュレーションをする際には、こうした事情を考慮して賃貸借契約書の特約欄などから大家さん負担分を計算しておくとよいでしょう。
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最後に、原状回復工事の費用を削減する方法についても、簡単に触れておきましょう。
購入検討の段階では、いまの入居者さんの「入居期間の長短」「喫煙の有無」「ペットの有無」、そして「室内設備の多寡」「過去の修繕履歴」などから、今後の工事費用を予測することが大事です。
たとえば、「入居期間15年・ペット可・電気温水器(※交換費用が高額になりやすい)」の条件で賃貸している部屋であれば、退去時の工事費用が高額になることが予測できますので、その分を指値(値引き交渉)するか、購入自体を見送ることも検討した方がよいでしょう。
また、購入後の段階では、工事の発注先を幅広く考えることで、費用を抑えることができるかもしれません。
一般的に、同じ工事を発注した場合でも、「職人<工務店<管理会社」の順に、対応が親切・丁寧な代わりに工事単価は高くなります。
最初から職人さんに直接発注は難しいかもしれませんが、慣れてきたら馴染みの職人さんを見つけておくのもよいでしょう。
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