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本当に大丈夫!?「児童手当の拡充(案)」を説明します!
ようやく、岸田政権の掲げた『異次元の少子化対策』の目玉となるであろう「児童手当の拡充(案)」が見えてきました。
少子化といえば、つい先日にも厚生労働省から公表された『人口動態統計速報』によって衝撃的なデータが公開されたばかり。
本稿執筆時点の最新速報(※)によると、なんと1年間の出生数(22年3月~23年2月)は79万3,812人まで激減、80万人を下回ったとのことです。
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(※)厚生労働省ホームページ『人口動態統計速報(令和5年2月分)』
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出生数の低下は第2次ベビーブーム以降続いており、少子高齢化の主要因の一つとしてかねてより問題視されてきました。
それでも、1990年代~2010年頃までは110万人~120万人前後で踏みとどまっていたのですが、2010年代から一気に出生数の低下が加速。
2016年に初めて100万人を下回った際、様々なメディアが危機的状況と報じたことは、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。
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<参考資料>
【出典】
厚生労働省ホームページ『出生数、合計特殊出生率の推移』
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その2016年から僅か5年余りで、今度は80万人をあっさりと下回るペースで出生数の低下は進んでいます。
このペースは想定以上と驚く専門家も少なくなかったようで、日本の置かれた状況が極めて厳しいことは、もはや論を待たないのでしょう。
そんな経緯を受けての今回の『異次元の少子化対策』、そしてその目玉政策である「児童手当の拡充」とは、果たしてどのような内容になるのでしょうか?
本稿では、2023年5月下旬現在で報道された「拡充案」を基に、分かりやすく説明していきます。
これまでに報道された内容を整理すると、概ね3つのポイントに集約できます。
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<児童手当の拡充(案)のポイント>
①所得制限の撤廃
②支給対象の引き上げ
③多子加算
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以下、それぞれのポイントについて、著者の見解も交えながら説明してきます。
①について、現行制度では、一定の所得を超えた場合には児童手当が減額または無支給となりますが、拡充案ではこの所得制限による減額・無支給措置を撤廃するとしています。
一見すると、思い切った政策に思えなくもないですが、そもそも令和4年9月までは高所得者に対しても特例給付の形で児童手当は支給されていました。
また、児童手当の前身にあたる「こども手当」やその財源捻出のために廃止された「年少扶養控除」にはそもそも所得制限がありませんでしたので、実質的には1年前または数年前の状態に戻そう(近づけよう)という政策にすぎません。
②について、現行制度では「中学校卒業まで(15歳の誕生日後の最初の3月31日まで)」としている支給対象を、「18歳まで」に拡大しようというものです。
3年分も支給対象期間が伸びるわけですから、これも一見すると思い切った政策に思えるかもしれません。
しかし、報道によると、同時に「扶養控除」の見直しが検討されているとのこと。
具体的には、これまで扶養控除の対象となっていた「16歳以上19歳未満の子ども」に対する38万円の所得控除が廃止になるとの見方が有力です。
所得控除は減税措置の一つですから、実質的には「増税する代わりに、児童手当の支給期間を伸ばそう」という政策にすぎないのです。
最後の③について、現行制度の支給金額は以下のとおり(所得制限による減額・無支給を除く)ですが、このうち第3子以降の増額を15,000円から30,000円に倍増しようというものです。
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<現行の児童手当の支給金額>
【出典】
内閣府ホームページ『児童手当制度のご案内』より抜粋
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これは確かに新たな子育て支援ではありますが、当初は非公式ながらも、多子加算として「第2子に3万円、第3子に6万円」で検討されていたとの報道もあり、それと比べて大幅にトーンダウンした格好です。
第2子までは何の措置もなく、第3子の増額も当初の半額ですから、これで本当に少子化(出生数の低下)が止まるのか、政策の効果には疑問符がつきます。
なお、本稿でご説明した児童手当の拡充案は、あくまでの検討途中のものであり、これから改善される可能性があることは、重ねてお断りしておきます。
もう1点、忘れてはならないのが、こうした少子化対策の“財源”です。
現時点の報道によると、岸田政権は消費税を含む増税には否定的な立場である一方、社会保険料の引き上げは現実的な選択肢として検討しているとのこと。(所得控除が一部廃止になるとすれば、実質的な増税ではありますが・・・)
ご存じのとおり、個人負担という意味では社会保険料はほぼ税金と同じですから、殆どの国民にとっては増税であろうが、社会保険料の引き上げであろうが、実質的な影響は大差ありません。(強いていえば、社会保険料には上限額があるため、高所得者の負担は若干緩和されるのかもしれません)
もちろん、少子化対策が「待ったなし」の状況にあり、相応の国民負担は止む無しではありましょうが、問題なのはこうした一連の少子化対策への納得感です。
一部のSNSなどでは、「異次元の“少子化推進”対策だ」「最初から社会保険料の引き上げが目的ではないか?」といった声が挙がっていますが、少子化の歯止めに有効な政策であると国民の多くが納得する内容でないかぎり、こうした批判は止まらないのでしょう。(著者個人としても、いまの政策のままでは、とても少子化が止まるとは思えません・・・)
岸田総理は、ご自身で『特技は、人の話をよく聞くことだ』とかねてより仰っていました。
いまこそ“聞く力”を発揮いただき、実効性があり、かつ多くの国民が納得できる少子化対策を考え直してほしいと思います。
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