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岸田政権による“異次元の少子化対策”が話題となっています。
「少子化=子供の数が減る」ということですが、総務省の公表する日本の人口ピラミッドを見るにつけ、少子化と同時に「高齢化=高齢者の数が増える」も急速に進んでいることを改めて思い知らされます。
少子化だけでなく、高齢化の問題についても、今後はより根本的な対策を講じる必要性が高まることは間違いないのでしょう。
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<参考>
総務省統計局『人口推計(2022年(令和4年)10月1日現在)結果の要約』
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著者が生業としている不動産業界でも、高齢化に対する課題が顕在化しつつあり、その筆頭課題の一つが、「高齢者の方が、賃貸物件を借りにくい」というものです。
もちろん、現状でもシニア向け住宅や公営住宅などがありますし、高齢者の受け入れに積極的な大家さんや管理会社も多くあります。(著者の所有するマンションやアパートでも、高齢者の方にお住いいただいている部屋もあります)
しかし、その一方で、高齢者の方からの入居申し込みに及び腰の大家さんや管理会社も少なくなく、今後はより柔軟な高齢者の受け入れが課題となってくるはずです。
本稿では、なぜこうした課題が生じているのか、そしてその対策はどうすればよいのかについて、著者の所見も交えつつ、ご説明していきます。
高齢者の方が賃貸物件を借りにくい理由について、2つに分けて考えていきます。
1つ目の理由は、「経済的な理由」です。
当然ながら、賃貸物件を借りる際の審査では、「家賃を支払い続けることができるのか?」について入念にチェックが入ります。
具体的な内容は大家さんや管理会社によって異なりますが、おおまかには「①契約時点の資力(預貯金等)」「②継続安定収入の有無」「③連帯保証人・保証会社の引き受け有無」あたりがチェックされると思えばよいでしょう。
このうち、特に「②継続安定収入の有無」については、「現役世代の年収額>現在の年金受給額」という方が多く、基準とするラインに届かずに審査落ちしてしまうケースは少なくないようです。
もっとも、退職金などで「①契約時点の資力(預貯金等)」が十分な方もいらっしゃいますし、「③連帯保証人・保証会社の引き受け有無」についても親族に連帯保証人を引き受けてもらえたり、預貯金を根拠に保証会社が引き受けたりする事例も多数あります。
著者の体感としては、「経済的な理由」による事例は比較的少ない印象です。
もう1つの理由は、「健康・生活面の理由」です。
入居申し込みを断られてしまう理由としては、実務ではこちらのケースが多いと感じています。
多くの賃貸物件は、病院や高齢者専用住宅のように建物や室内がしっかりバリアフリー化されているわけでも、定期的に入居者さんの状況を確認できる仕組みがあるわけでもないため、室内でなにか事故が起きたとしても、早期発見は難しい現実があります。(仮に発見できてもその後の対応をどうするのかという問題があります)
定期的に様子を見てくれたり、近所からすぐに駆け付けてくれたりする親族の方がいればよいですが、実際には身寄りのない方や、親族が遠方にお住いの方は決して少なくありません。
そうなると、事実上、有事の対応は大家さんや管理会社がすることになりかねず、そのリスクは取れないとして、入居申し込みを断らざるをえない状況に繋がっているわけです。
また、事故だけでなく、孤独死の問題もあります。
身寄りのない方は言わずもがな、親族のいらっしゃる方であっても諸般の事務手続きが円滑に進むとは限りませんし、相続で揉めたりすれば大きな時間を取られてしまうこともあります。
室内の見守りサービスや孤独死保険などもあるとはいえ、それでも大家さんや管理会社の負うリスクは小さくないのが実情なのです。
このように、高齢者の方が賃貸物件を借りにくい背景にあるのは、大家さんや管理会社の差別や偏見によるものではなく、賃貸経営上のビジネス判断の結果です。
賃貸経営はボランティアや公共事業ではありませんし、一般のサラリーマンの方も銀行から多額の借入をして大家さんをしている時代です。
こうした経営判断に対して大家さんや管理会社を責めるのは酷というものでしょう。
とはいえ、高齢化の進む日本社会において、高齢者の住居事情の改善が重要であることも間違いありません。
その解決策としては、やはり“国”が動くしかないのだろうと思います。
たとえば、賃貸物件のバリアフリー工事や見守りサービス・孤独死保険などの導入に対する補助金・助成金、あるいは高齢者の入居受け入れに対するインセンティブや行政のフォローなどは、検討の余地があるのではないでしょうか。
また、何よりも「借地借家法の改正」が望まれます。
先日、別の記事でも、最高裁判決を絡めて、強すぎる借り手(入居者)の権利保護から生じる弊害についてご説明しました。
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<参考記事>
悪質な滞納者でも追い出しはNG!?注目の最高裁判決を解説します!
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本来は借り手を守るための法律だったはずが、理不尽なまでに貸し手(大家さんや管理会社)に厳しすぎることで入居審査が必要以上に厳しくなり、「借りたいのに借りられない」「貸したいのに貸せない」といった本末転倒な状況に繋がってしまっている一面もあるのです。
こうした環境整備や法改正が出来るのは“国”だけです。
少子化と合わせて、これからの高齢化社会に備えた動きを加速させていかなければならない時期なのだと思います。
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