節税
先日、突然報道された「退職金への増税」に関心が集まっています。
話の発端は、6月7日に行われた第8回経済財政諮問会議にて示された『経済財政運営と改革の基本方針 2023(仮称)(原案)』のなかに、退職所得課税制度の見直しが盛り込まれたことにあります。
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<参考>
内閣府ホームページ 第8回会議資料:会議結果 令和5年
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同資料は、いわゆる『骨太の方針』の原案。
まだ原案とはいえ、ここに退職金課税制度の見直しが盛り込まれたということで、近い将来に増税はほぼ確実と捉える有識者が多いようです。(著者も同意見です)
増税の具体的な内容は、年末の与党税制改正大綱で明らかにされると思われますが、これまでの税制調査会などでの検討経緯から、おおよその方向性は予想することができます。
本稿では、今後予想される退職金の増税について、現行の退職金課税制度のおさらいを交えながら、分かりやすく説明していきます。
まずは、現行の退職金課税制度をおさらいしておきましょう。
退職金とは、退職した従業員や退任した役員等に支払われるお金のことですが、一般に、長期間にわたる勤務の対価の“後払い”としての性格とともに、退職後の“生活の原資”に充てられる性格を有するとされています。
こうした性格上、退職金は一時に相当額を受け取ることが多いため、通常の給与など他所得に比べて累進緩和の配慮が必要との考えから、退職金の課税には税制優遇、即ち減税の配慮がなされている背景があります。
具体的には、原則として、退職金の金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1を所得金額として、他の所得と分離して累進税率により課税されます。
また、退職所得控除額は、以下のように勤続年数に応じて増額することとなっています。
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<現行の退職金課税制度(概要)>
【退職所得の計算式】
退職所得 = (退職金の金額-退職所得控除額)×1/2
※「特定役員退職手当等」「短期退職手当等」に該当する場合は例外規定あり
【退職所得控除額】
・勤続20年以下 :40万円×勤続年数 ※最低80万円
・勤続20年超 :800万円+70万円×(勤続年数-20年)
※その他詳細は国税庁ホームページ等を参照ください
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つまり、現行の退職金課税制度には、「勤続年数が長い人ほど、退職金への税制優遇(減税)が大きい」という特徴があるというわけです。
それでは、今回『骨太の方針(原案)』に盛り込まれた「退職所得課税制度の見直し」とはどのようなものになるでしょうか。
同原案では見直し内容の具体的な言及こそありませんでしたが、「成長分野への労働移動の円滑化」のテーマのなかに盛り込まれたことから、おおよその内容を予想することができます。
実は、退職所得課税制度に関しては、かねてより見直しの提起がなされており、たとえば2022年10月18日に行われた第19回税制調査会において、『・・・(前略)・・・退職給付のあり方に対して中立的ではなく、また、勤続期間が20年を超えると一年あたりの控除額が増加する仕組みが、転職の増加など働き方の多様化を想定していないとの指摘がある・・・(後略)・・・』と指摘されています。
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<参考>
内閣府ホームページ 第19回 税制調査会(2022年10月18日)資料一覧
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どうやら、「勤続年数が長い人ほど、退職金への税制優遇(減税)が大きい」という現行の退職金課税制度の特徴が、「もう少し、いまの会社に勤務すれば退職金の税金が安くなるから、それまで転職はやめておこう」などといった動機付けとなっている可能性があり、ひいては成長分野への人材移動の阻害要因になりうる、ということのようです。
この対策として、勤続20年超の方に対する退職所得控除額の計算式について、70万円→40万円に引き下げる、あるいは70万円と40万円のどこかまで大幅に引き下げる方向に進むのではないかという見方が濃厚となっています。
そもそも、退職金の減税を目的に転職を、ましてや成長分野への転職をやめたり延期したりする人が本当に多くいるのかは疑問が残るところではありますが、仮にそれが事実だとしても、逆に勤続20年以下の方に対する退職所得控除の計算式を、40万円→70万円に引き上げることでも解決できる話ではあります。
しかし、退職所得課税制度の本来主旨や政府与党の台所事情・昨今の増税方針から考えると、その可能性は限りなく低いと考えざるを得ないわけです。
さらに、今回の件で大事なもう一つのポイントは、この増税の影響は、企業などを退職する際に受け取る退職金だけでなく、税制上は同じ「退職所得」として扱われる、「iDeCo」「企業型DC」「確定給付型企業年金」「小規模企業共済金」にも及ぶ可能性があるという点です。
ご存じのとおり、「iDeCo」「企業型DC」「確定給付型企業年金」「小規模企業共済金」などは、老後の生活資金の不足に備える目的で、現役時代から少しずつ積み立てを行う性質の制度・金融商品で、個人の資産運用を後押しするために、政府も積立期間中の非課税措置や受取時の減税措置をアピールしてきた経緯があります。
しかし、積立期間が終わり、いざ一括受け取り・一時金受け取りをする際、これら制度・金融商品は「退職所得」として減税されることとなっていたため、今回の退職所得課税制度の見直しによって、増税に巻き込まれてしまう可能性があるのです。(もっとも、「iDeCo」「企業型DC」「確定給付型企業年金」「小規模企業共済金」などは、今回の増税の原因とされる「転職」「成長分野への人材移動」とは直接関係ない話ですから、さすがに何らかの救済措置は講じられる可能性もあります)
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これが現時点で予想される「退職金への増税」の概要です。
ただでさえ、老後の年金不足が取り沙汰され、足元では賃上げペースを超える物価高騰が起きているさなか、頼みの綱の退職金まで増税とあっては、まさに“泣きっ面に蜂“といえるかもしれません。
年末の与党税制改正大綱では、より具体的な方針が示される可能性が高いと思われます。
増税の続く税制の動きからは、しばらく目が離せそうにありません。
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