資産運用
不動産投資の融資に関する相談を受けていると、ときどき「ノンリコースローンの利用についてどう思いますか?」といったご質問を受けることがあります。
ノンリコースローンとは、いわゆる「非遡及型融資」のこと。
もし、債務者(借り手)が返済不能になった場合でも、債権者(貸し手≒金融機関等)は追加の担保や保証を要求することができず、債務者は担保設定した以上の支払いを免れることができる融資の方式です。
不動産投資の融資で考えた場合、購入する収益物件そのものを担保として融資申込をすることが大半ですが、もし賃貸運営がうまくいかずに借入返済が不能となったとしても、担保設定した当該収益物件を手放すことでとりあえずはリセットできるため、一見すると借り手に優しい融資方式のようにも思えます。
実際、著者にノンリコースローンの質問をされる方には、これから不動産投資を始める方・始めたばかりの方が多く、収益物件購入後の賃貸運営に自信がないことに対するリスクヘッジとして、利用を検討されている印象です。
しかし、ノンリコースローンの本質は、そのような借り手に優しい融資方式ではありません。
むしろ、ノンリコースローンに過度な期待を寄せることで、不動産投資のスタートが遅れてしまったり、賃貸運営の足かせになってしまったりすることも十分考えられるのです。
本稿では、特に不動産投資初心者の方に向けて、ノンリコースローンの本質や注意点について、分かりやすく説明していきます。
ノンリコースローンを考えるうえでは、その相対となるリコースローンと合わせて考えると分かりやすいでしょう。
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<不動産投資におけるリコース・ノンリコースの違い>
●リコースローン
不動産投資が失敗して借入返済が不能となった場合、担保資産(借入の原因とした収益物件など)に限らず、債務者の他の資産からの返済が必要
●ノンリコースローン
不動産投資が失敗して借入返済が不能となった場合、担保資産(借入の原因とした収益物件など)を差し出す以上の返済は不要
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仮に、購入後の賃貸運営がうまくいかず、借入返済が不能となったとします。
この場合、返済不能となった時点の借入残高がポイントで、担保設定した資産の売却金額(競売や任意売却によって相場価格よりも割安に売却されることもあります)が借入残高を上回れば、リコースローンでもノンリコースローンでも、実質的に変わりません。
しかし、借入残高の方が売却金額よりも大きかった場合、リコースローンでは別の個人資産や事業資金から不足分を返済しなければならない一方、ノンリコースローンでは不足分の返済義務を負わないという違いが生じることになります。
この点において、ノンリコースローンの方が万一の事態への備えとなっているとして、特に賃貸運営の経験や実績の浅い初心者の方の関心を集めているのだと思われます。
しかし、残念ながらノンリコースローンの本質は、そのような初心者の方に寄り添った融資の方式ではありません。
また、不動産投資初心者の方にとっては、そもそもノンリコースローンの利用自体が難しいことは予め理解しておいた方がよいでしょう。
前述のとおり、ノンリコースローンのメリットが生じるケースは、返済不能となった時点の借入残高が売却金額を上回る状況です。
たとえば、1億円の収益物件を全額借入で購入したものの、借入後まもなく返済不能・売却となり、その売却金額が8,000万円だった事例であれば、この状況に合致してノンリコースローンのメリットが発揮されるのかもしれません。
しかし、不動産投資の実務では、こうしたケースはまず考えられません。
なぜなら、そもそも容易に「借入残高>売却金額」となるような条件では、金融機関はノンリコースローンの審査を通さないからです。
ノンリコースローンは、融資金額を全額回収できないリスク(≒不動産投資に失敗するリスク)の一部を、投資家本人ではなく、金融機関に転嫁することで成り立っています。
そのため、金融機関としてもノンリコースローンの取り扱いには殊更慎重になりますし、二重三重にも回収不能リスクをヘッジするのは当然です。
一般論として、その他条件が同一であれば、
・リコースローンよりも融資金額は低くなり(必要な頭金は高くなり)、
・リコースローンよりも返済期間は短くなり、
・リコースローンよりも金利は高い
といった条件提示がされるはずです。
先ほどの事例でいえば、すぐに売却して8,000万円にしかならない収益物件に対し、しかも借入後すぐに返済不能となる可能性を抱えた人に、1億円満額をノンリコースローンで融資する金融機関は、まずないでしょう。(特殊な事情がない限り、売却相場が8,000万円とすれば、それに更に掛け目を入れた金額が融資の上限金額となるはずです)
融資金額だけでなく、返済期間や金利もリコースローンよりも厳しい条件となれば、初心者の方の平均的な自己資金・いまの市況で初心者でも探せる収益物件で考えると、ノンリコースローンの融資条件では、そもそも利益を確保できるシミュレーション自体が成り立たないのです。(かつて、収益物件の売買相場が今よりずっと安かった頃にはノンリコースローンでも採算の合うケースもあったようですが・・・)
こうした事情は金融機関側も当然熟知していますので、個人の不動産投資に対するノンリコースローンに積極的な支店や担当者は少数ですし、ましてや初心者の方に前向きに提案してくるケースはまずないでしょう。
したがって、特殊な事情がある場合を除き、初心者の方がノンリコースローンを利用する選択肢は排除して考える方が現実的だと考えます。
「購入後の賃貸運営に自信がないからリスクの範囲を限定しておきたい」といった理由であれば、リコースローンで有利な条件を引き出したり、そもそもの購入条件や賃貸運営スキルを見直したりすることに意識を向けた方が建設的だといえるでしょう。
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