資産運用
近年、不動産を賃貸する際の敷金・礼金などを巡るトラブルが話題となっています。
SNSやネットニュースの普及によって、一般の方でも不動産取引に関連する法規制や契約・商慣習の背景などを知ることが容易となったことで、大家さんや不動産仲介会社の説明に異議を唱える方が増えているようなのです。
実際、一般の方にとって、「不動産の賃貸借契約を結ぶ≒引っ越し」はそう頻繁にあるイベントではありませんし、見慣れない言葉や専門用語の並ぶ賃貸借契約書や重要事項説明書などは、書かれている内容を理解するだけでも一苦労でしょう。
不動産業界には独自の商慣習や暗黙の了解も多いことから、従来は大家さんや不動産仲介会社が圧倒的に有利な立場で契約を進めることが多く、時として入居者さんに不利な状況が生じていたのは事実だと思います。
その意味で、一般の方が自己防衛できる知識を付けやすくなった環境変化は、業界全体の健全化にも繋がりますから、歓迎すべきことだと思います。
しかし、その一方、現役大家さんたちからは「間違った知識を強硬に主張する方」「極端な解釈で理不尽な要求をする方」への対応に苦慮しているとの声も聞こえてきます。
著者自身も、SNSやネットニュースを見るにつけ、発信している情報が間違っていたり、誤解を招きかねない説明になっていたり・・・という事例を見かけることがあり、業界健全化に向けた過渡期には、こうしたトラブルが増えるのだろうと考えるようになりました。
特に不動産投資を始めたばかりの新米大家さんにとっては、入居者さん(申込者の方)からの異議申し立てに戸惑うこともあるかと思います。
本稿では、特に敷金・礼金を巡るトラブル事例について、その対処方法の参考としていただけるよう、分かりやすく解説していきます。
「敷金」とは、家賃の滞納や退去時の精算金に充当する目的で、入居時に大家さんに担保として差し出すお金のこと。
あくまで担保の意味合いですから、何事もなければ退去時に返金されることになります。
敷金に関して、特にトラブルとなりやすいのが退去時の精算です。
一般に、入居者さんが退去する際には、次の入居者さんに部屋を貸せる状態まで室内を修繕・クリーニングすることになりますが、この費用負担がしばしば争いの火種となります。
かねてより東京には、いわゆる東京ルールといったガイドラインがありましたが(東京以外でもこれを基準に費用負担を定めることが多かった)、全国的な法規制が明文化されたのは2020年の民法改正と、まだ最近のこと。
実際、民法改正前には、本来は大家負担とすべき費用を入居者さん負担として請求し、これを敷金から差し引いた事例もあったようです。
これ自体あってはならない話ではありますが、一部のSNSではこうした事例を引き合いに出しつつ、「50万円の請求が5万になった」「退去時費用は絶対に支払うな」など、過激な説明をしていることがあります。
そして、これを見た入居者さんとの間で、「本来入居者負担の費用まで大家負担にせよと主張する」「敷金の支払自体を拒否する」といったトラブルに発展する事例も起きているようなのです。
しかし、前述のとおり、現在では民法によって費用負担の原則が決まっていますし、国土交通省がかなり細かく費用負担の考え方(※)を公表しています。(入居契約時に不動産仲介会社の契約書雛形を使用している場合、契約書内にも費用負担のルールが明記されていることもあります)
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(※参考)原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001611293.pdf
【出典】国土交通省 ホームページ
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もし入居者さんの主張が過剰なものであれば、こうした点を丁寧にご説明することで理解を得られるケースも少なくないはずです。
また、敷金自体は、あくまで当事者間の自由意思による契約事項です。
契約前であれば申込者の方に契約しない権利がある一方、契約後にこれを拒否することに正当性はありませんので、毅然とした態度で対応すればよろしいかと思います。
続いて、「礼金」を巡るトラブル事例もご説明します。
「礼金」とは、不動産の賃貸借契約を結ぶ際に支払う“一時金”のこと。
敷金が担保的意味合いの預かり金だったのに対して、礼金はあくまでも一時金の支払いですから返金はありません。
ところで、「なぜ、入居者さんが大家さんにお礼のお金を払わなければならないの?」と思われるかもしれません。
諸説ありますが、昔は大家さんと入居者さんの関係が今よりも深く、今よりも賃貸物件の数が少なかったため、「大家さんに対するお礼、または挨拶の手土産」として、礼金の商慣習ができたのではないか、とする説が有力なようです。
もっとも、現代では大家さんと入居者さんが対面する機会すら殆どありませんし、賃貸物件も市場に溢れている状況ですから、その意味では礼金は過去の遺物、時代遅れといってもよいのかもしれません。(実際、礼金の設定がない賃貸物件は増えています)
そんな礼金で増えているトラブルは、「入居時の支払拒否」「退去時の返金要求」です。
支払拒否理由としては、礼金の支払い根拠に対する不納得感や、一部SNSなどでの「支払拒否(減額)が成功した!」とする情報を根拠とするケース、退去時の返金要求については、入居者さんが敷金と混同しているケースが多い模様です。
前述のとおり、礼金の支払い根拠が現代に馴染まないのは同意するところですが、殆どの大家さんは礼金収入も含めて、毎月の家賃を設定している現実もあります。
言い換えれば、「礼金の設定をやめる=毎月の家賃を上げる」ということになりますから、結局のところ入居者さんは損も、得もしていないことが多く、この点を丁寧にご説明することになるでしょう。
また、中には“契約後に”礼金の支払拒否をする方もいるようですが、これは敷金同様、契約違反として毅然と対応すればよいかと思います。
著者の知る限り、礼金の設定そのものを規制する法令はありませんので、契約内容に合意した以上、支払義務が生じるのは当然のことだからです。
退去時の返金要求についても同様で、賃貸借契約書には礼金は一時金として扱うことが書かれているはずですから、特別な事情がないかぎり応じる必要はありません。
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