資産運用
先日、著者のところに、所有する収益物件に孤独死が起きてしまったとのご相談が寄せられました。
病院からの照会によって早期に発見でき、室内の原状回復に特殊清掃や大規模リフォームは必要とはならなかったものの、今後の賃貸募集で告知が必要なのか?というお悩みを抱えていらっしゃったのです。
意外に思われるかもしれませんが、実は前入居者が室内で死亡されたことに関連する賃貸募集時の告知に関して、法令には明確な定めはありません。
そのため、「入退去を●回繰り返すまでは告知すべき」「殺人や自殺などでなければ告知は不要」「老衰などによる自然死でも告知した方が無難」など、大家さんや賃貸不動産会社のスタンスによって、対応方針がブレていたというのが現実でした。
ところが、最近になってようやく、そんな状況に一石を投じる動きがありました。
令和3年10月に、国土交通省が『宅地建物取引業者による人の死の告知に関する
ガイドライン』を発表し、孤独死を含む「人の死」に関する告知事項のガイドラインが初めて示されたのです。
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<参考>
国土交通省『宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン』
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001426603.pdf
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不動産賃貸業を営むうえで孤独死の問題は避けては通れませんし、日本の人口構造を考えれば、これから室内での孤独死が増えることは不可避といえます。
本稿では、賃貸募集時の告知義務について、国土交通省のガイドラインを中心に分かりやすくご説明していきます。
前述した国土交通省のガイドラインが作成された背景の一つに、多くの大家さんが有事の告知義務を警戒するあまり、高齢者の方に対する入居審査を必要以上に厳しくしてしまい、高齢者の方の賃貸入居を困難にしていることがあったとされています。
この課題に関しては以前別の記事でも取り上げましたが、高齢化の進む日本の不動産賃貸業界において、「待ったなし」の重要課題です。
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<参考記事>国が動くしかない!?高齢者を取り巻く賃貸事情の課題とは!?
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その意味で、今回のガイドラインによって告知を要するシーンが具体的に例示されることで、大家さんの警戒心が緩和されるとすれば、この課題解消にも一定の効果が期待できるといえるでしょう。
但し、このガイドラインには法的効力はなく、国の“お墨付き“が与えられたものではないことには注意が必要です。
実際、ガイドライン内において、
『・・・(前略)・・・、現時点において裁判例や取引実務に照らし、一般的に妥当と考えられるものを整理し、とりまとめたもの・・・(後略)・・・』
『・・・(前略)・・・、本ガイドラインに基づく対応を行った場合であっても、・・・(中略)・・・民事上の責任を回避できるものではない・・・(後略)・・・』
と明記されています。
それでも、目安となるガイドラインが国(国土交通省)から示された意義は大きく、今後の対応方針の根拠となることは間違いないでしょう。
それでは、ガイドラインに示された告知義務について、ポイントを絞って説明していきましょう。
まず、死亡要因として最も多いとされる自然死(老衰、持病による病死など)に関しては、原則として告知不要とされました。
また、自宅の階段からの転落や、入浴中の溺死や転倒事故、食事中の誤嚥など、日常生活の中で生じた不慮の事故による死亡についても、自然死同様に原則として告知不要とされています。
但し、死亡の発見が遅れたことにより、いわゆる特殊清掃や大規模リフォーム等が必要となった場合には、概ね3年間程度は告知を要することも明記されました。
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<ガイドラインにおける告知義務>
●自然死 :原則として告知不要
●日常生活中の事故死 :原則として不要
※特殊清掃や大規模リフォーム等が必要となった場合は、概ね3年間程度は告知すべき
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冒頭にあった孤独死案件に関しては、発見が早く、特殊清掃・大規模リフォームのいずれも不要だったことから、ほかに特別な事情がなければ告知不要が原則ということになります。
なお、特別な事情については、ガイドライン内で『買主・借主から事案の有無について問われた場合や、その社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合』と例示されています。
著者の経験上、入居者さんから「死亡事故のあった部屋ですか?」と質問を受けたことはありませんが、積極的な告知は不要ではあっても、当然ながら事実を隠してよいということではないことも、念のため理解しておくべきでしょう。
いかがでしょうか。
死亡の告知義務と、高齢者の入居促進はなかなか相容れない課題ではありますが、高齢化の進む日本では、なんとかバランスさせる道を探るしかありません。
このガイドラインも、まだまだ叩きの素案といった内容に留まっていますが、初めて国からその目安が示された意義は大きいと思います。
今後は、ガイドラインの拡充や法制化の動きに繋がることを期待したいところです。
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