資産運用
不動産投資をしていると、ある意味で最も厄介なのが、悪質な入居者への対応です。
家賃・更新料の滞納や近隣トラブルなど、放置しておくと、一棟物であれば他の入居者からの苦情や退去に繋がりますし、区分投資でも管理会社経由で所有者責任を問われることになりかねません。
ご相談をお受けしていると、投資初心者の方には、こうした悪質な入居者対応の難しさをご存じない方が多い印象を受けます。
たとえば、飲食店などで迷惑行為や無銭飲食があれば、即時退店や警察への通報ができますから、同じように悪質な入居者に対しては退去を求めたり、場合によっては警察の介入を期待できたりするだろうと考えてしまうようです。
ところが、建物賃貸借ではそうはいきません。
家賃を払わない入居者であろうと、騒音などのトラブルを繰り返す入居者であろうと、家主は簡単に入居者を退去させることはできないのです。
不動産投資をするのであれば、それが副業であれ、こうしたリスクを覚悟しておく必要があります。
本稿では、いざ発生すると本当に厄介な、「悪質な入居者への対応」をテーマにお話ししたいと思います。
問題の原因は、「借地借家法」にあります。
借地借家法とは、文字通り、借地契約や借家契約を行うときに適用される民法の特別法の一つで、そのルーツは旧借家法に遡ります。
地主のように強い権力と知識を持った貸主と、一般の借主との間に生じる取引上の不公平の是正といった借主の権利保護を目的とした法律だったのですが、時代が変わり、「貸主=多額のローンを抱える一般サラリーマン」であることも珍しくない現在においても、当時の基本設計から変わらない“困り者”ともいうべき法律です。
借地借家法では、たとえ入居者が家賃滞納や騒音トラブルを起こしたとしても、それだけの事由を以って、退去(立ち退き)を要求することを認めていません。
立ち退きを求めるには、以下のような「正当事由」が必要と規定されているためです。
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<借地借家法第28条に定める正当事由>
①賃貸人および賃借人の建物使用を必要とする事情
②建物の賃貸借に関する従前の経過
③建物の利用状況・現況
④立退料の申出
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ところが、上記正当事由について、具体的にどのような事情や経過、あるいは状況であれば正当事由として認定されるのか、法律上に明記がありません。
任意の立ち退き交渉がまとまらず裁判となった場合において、
・建物が老朽化しており、そのまま住むと危険である
・大家側にどうしてもその建物を使う必要が生じている
・十分な立退料の提示がある
といった要素があれば、比較的に正当事由として認定されやすい傾向はあるようですが、個別事情や担当する裁判官の心証による部分が大きく、明確な定義やラインを引くことは困難であるというのが、実際のようです。
そもそも、正当事由など揃えなくとも、契約不履行による立ち退きを求めることはできないのでしょうか?
たとえば賃貸借契約書において、「家賃を2ヵ月以上滞納したら、部屋を明け渡すものとする」といった特約を付けておけば、お互いに合意した内容であるわけですから、正当事由の有無によらず退去を求めることができるという考え方です。
あるいは、実務でよくある2年毎の更新時に、「家賃滞納や近隣トラブルが生じた場合、貸主は更新を拒絶できるものとする」といった特約を付けておけば、少なくとも2年後には借主に退去を求めることができるという考え方もあるでしょう。
しかし、結論からいえば、これらはいずれも不可とされています。
借地借家法第30条にて、「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。」との規定があるため、たとえ契約書等でこうした特約を交わしえていたとしても無効となってしまうのです。
裁判の判例を見ていくと、契約の不履行等を原因とした立ち退きを要求する場合、「信頼関係の破壊」が必要とされています。
これも「正当事由」と同じく曖昧な表現ですが、判例上は最低でも3ヵ月以上の滞納が「信頼関係の破壊」には必要で、かつ「過去には家賃を払い続けていた」「突然のリストラや病気などやむを得ない理由があった」などの事情があれば、さらに長期間の家賃滞納を容認してしまうスタンスであることが伺えます。
著者の感覚では、家賃滞納など数日でもダメですし、ましてや1ヵ月・2ヵ月と滞納するともなれば、理由の如何によらず十分に信頼関係は破壊されていると感じるところですが(お金がないからと万引きや無銭飲食が許されないのと同じことだと思います)、少なくとも判例を見る限り、日本の司法はそうは考えないということのようです。
一応、借地借家法では、こうしたリスクへの対策として、定期借地契約・定期借家契約などの規定を設けています。
これらは一定要件に基づき、予め決められた期間の借地・借家契約を締結することで、更新もなく、当然に一定期日を以って契約終了となる契約形態です。
しかし、入居者目線で考えれば、定期借家契約では生活の安定性が大きく損なわれてしまうこととなり、堪ったものではありません。
ごく一部の悪質な入居者のために、大多数の真っ当な入居者が不利益を被ることになってしまいますので、実務では、定期借家契約による賃貸募集は殆ど使われていないのが実態です。
結論として、現状では家賃滞納者などの悪質な入居者への対策には限界があり、そのリスクは実質的に貸主が負うことになってしまいます。
たしかに、生活するうえでの住居の重要性は論を待たないものではありますが、その責任の一端を民間人である貸主に負わせるのは、「貸主=地主=金持ち」という時代錯誤の認識による部分が大きいのだろうと思われます。
これから不動産投資を始める方は、こうしたリスクがある点も頭の片隅に置いておくとよいでしょう。
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