節税
今年もいよいよ確定申告が始まりました。
ところで、いまSNSで「保育料も経費にすべし」というツイートが大変話題を集めていることをご存じでしょうか?
話題の発端となったのは、ある弁護士さんの発信された、
・確定申告のときに保育料が経費にならないのはおかしくない?
・子どもがいる共働き夫婦が保育園を利用するのは仕事を続けるうえで必要不可欠なのに保育料は『事業に必要な経費』にあたらないとされている
・たとえば接待交際費でも慣習的に必要経費と認められることが多いのに…
・子育て世代の多様な働きかたが尊重される社会をめざして訴訟を準備しています
といった主旨のツイートです。(関心のある方は、調べてみてください)
たしかに、共働き夫婦が仕事を続けるためには、保育園の利用は実質的に必要不可欠ですから、保育料が『事業に必要な経費』であることには疑いがありません。
また、キャバクラやスナック等のいわゆる“夜のお店”であっても、取引先の接待など業務に必要な利用である限りにおいては、接待交際費として『事業に必要な経費』に認定されていることも周知の事実でしょう。
著者なりにこのツイートを解釈すれば、“夜のお店”での接待が事業に必要なことはそうだとしても、保育料の方がより必須性・必要性が高いことは明らかなのに、保育料が経費に否認されることは税法上の公平性に欠ける、というご指摘ではないかと思います。
さらにいえば、いま世間を騒がせている政治資金収支報告書の問題では、常識的にありえないようなお金の流れであっても経費にできるのに、常識的に必要不可欠な保育料が経費に認められないことには、納得のいかない国民が多いのではないかと思います。
本当に裁判となれば注目の判決となりそうですが、現時点における税の専門家である税理士・会計士の見解としては、「勝算は薄い」と見る向きが強いようです。
本稿では、「保育料を経費にできるか?」について、税法や国税庁の見解にも触れながら考えてみようと思います。
そもそも、税法上(所得税法上)の「経費」とは、どういった定義がされているのでしょうか?
所得税法第37条および国税庁のホームページには、以下のように書かれています。
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<必要経費の定義>
■所得税法第37条より抜粋・一部加工
・・・(前略)・・・所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用・・・(中略)・・・の額とする。
■国税庁HP 『タックスアンサーNo.2210 やさしい必要経費の知識』より抜粋
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
事業所得、不動産所得および雑所得の金額を計算する上で、必要経費に算入できる金額は、次の金額です。
(1)総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
(2)その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
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ご覧のとおり、税法上においても、それを運用する国税庁の解釈においても、「経費」の定義は、「直接要した費用」「業務について生じた費用」といった非常に曖昧なものとなっています。
この定義を見れば、“夜のお店”による接待は「経費」となる一方、保育利用によって労働することが「経費」とならないことについて、ますます疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。
ではなぜ、保育料は当たり前に「経費」にならないと考えられてきたのでしょうか?
先ほどの国税庁のホームページには、経費算入の注意点として以下の記載があります。
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<必要経費算入の注意点>
家事上の費用は必要経費となりませんが、個人の業務においては一つの支出が家事上と業務上の両方にかかわりがある費用(家事関連費といいます。)となるものがあります。
(例)店舗併用住宅に係る費用(租税公課、家賃、水道光熱費など)
この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。
【出典】国税庁HP 『タックスアンサーNo.2210 やさしい必要経費の知識』より抜粋・一部加工
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
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また、国税庁のホームページで公開されている以下の考察論文では、必要経費の基本的考え方として、「経費」から家事費を除外することは、議論の「出発点」であることが記されています。
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<必要経費の基本的考え方>
・・・(前略)・・・個人の場合には、消費生活を営んでいるので、家事費を排除することは、必要経費論の出発点をなしており、・・・(攻略)
【出典】国税庁HP 『所得税法第37条に規定する直接性に関する一考察』より抜粋・一部加工
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/74/04/
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つまり、保育料に関して、明確に「経費」を否認する税法上の根拠こそないものの、国税庁は「家事関連費を経費としない」スタンスを明確に示しており、保育料は「家事関連費」に分類されるため「経費」とできない、という解釈となるようです。
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たしかに、この考え方には一理あると思います。
保育料を「経費」に入れるのであれば、その他の家事関連費との線引きが曖昧になり、たとえばベビーシッターや家事代行、あるいは介護費等も「経費」になるはずだ、という議論を招きかねません。
また、養育する子供の数が多い世帯ほど結果的に減税となることから、所得税法の「控除」制度や、先日見直しが決まったばかりの「児童手当」等との再整理も必要となることでしょう。
とはいえ、冒頭にご紹介したツイートのとおり、いまの税制が「夫婦共働き」に対する配慮に欠けていることは、著者も痛感しているところです。
この先、本当に訴訟となるのであれば、その判決に注目していきたいと思います。
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