資産運用
先日、厚生労働省より24年2月の「毎月勤労統計調査(速報)」が発表されました。
-----------------------------------------------------
<参考>
厚生労働省ホームページ 『毎月勤労統計調査 令和6年2月分結果速報等』
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r06/2402p/2402p.html
-----------------------------------------------------
同調査によると、現金給与総額(名目賃金)は282,265円(1.8%増)となった一方、実質賃金ベースでは、前年同月比1.3%減となったとのこと。
これにより実質賃金の減少は23ヵ月連続となり、リーマンショックにより景気低迷した2007年9月~2009年7月と並ぶ、不名誉な最長記録をマークしてしまいました。
4月に入ってからも、各社から連日のように各種物品・サービスの値上げが発表されていますし、5月には政府による電気代・ガス代の補助金終了が予定されています。
長引く物価高騰に賃上げが全く追いつかず、残念ながら、実質賃金の減少はまだ当分継続するとの見方が優勢です。
しかし、それでも岸田政権は「2024年に物価高を上回る所得を実現する」ことを目標に掲げています。
本当に24年内に実質賃金がプラスに転じ、日々の生活がラクになるのでしょうか?
本稿では、直近の状況変化も踏まえつつ、その実現性について考えてみたいと思います。
本題に入る前に、そもそも「名目賃金」と「実質賃金」の違いについて、簡単におさらいしておきましょう。
「名目賃金」とは、「労働への対価として支払われた貨幣」を指しており、基本給のほか残業代や職務手当などを含んだ総額です。(但し、現金支給されない福利厚生は含みません)
名目賃金の推移は分かりやすい指標である一方、物価(貨幣価値)との関係を測ることができず、しばしば生活実態とはそぐわない動きをする不都合を抱えています。
たとえば、物価が10%上昇すれば、同じ物品・サービスを購入するには10%のお金が余計に必要ですから、貨幣価値はその分だけ減少したことになります。
つまり、物価上昇時に名目賃金が変わらないとすれば、生活実態は厳しくなって当然というわけです。
逆に、物価が10%減少すれば、貨幣価値はその分だけ増加するため、名目賃金が変わらないとすれば、その分生活実態はラクになります。
「名目賃金」に対して、こうした物価(貨幣価値)との差分を考慮して再計算したものが、「実質賃金」です。
日本では長らく物価上昇のない時期が続きましたが、ご承知のとおり数年前より急激に物価が上昇しています。
こうした局面で生活実態への影響を測るには、名目賃金ではなく、実質賃金の推移に注目する必要があります。
では、23ヵ月連続の減少となった実質賃金に対して、岸田政権はどのような作戦で増加に転じさせるつもりなのでしょうか。
目先のイベントで鍵を握るのは、「春闘」だと言われています。
春闘とは、「春季闘争」の略語で、毎年、春ごろに労働組合と経営側が賃上げや労働時間の短縮などといった労働条件を改善するために行う交渉のことです。
本稿を執筆している4月11日現在、まだ24年度春闘の結果は揃っていませんが、政府からの強い賃上げ要請の効果なのか、速報値では平均5%、中小企業においても4%を超える賃上げとなる見通しであることが報じられています。
なるほど、これだけを見れば、足元の物価高騰を上回ることが可能と思えるかもしれません。
しかし、この5%という数字は、大手企業や比較的経営余力のあるごく一部の中小企業の集計結果です。
日本の企業数の99%以上は中小企業、その数は300万社を超えると言われていますが、先ほどの5%の速報値は僅か2,600社あまり、即ち日本の企業数全体のたったの0.1%未満の回答を集計したものに過ぎないわけです。
果たして、残る99.9%以上の企業が、これに追随して5%前後の賃上げを実行できるのかは、まだ誰にも分かりません。
また、仮に賃上げ(基本給の上昇)が叶ったとしても、24年問題等の労働時間規制強化によって残業代が減り、実際の賃金支給額自体は計算通りに増えないとの試算もあります。
たしかにこれまでの春闘の結果よりは“マシ”な速報ではあるものの、日本全体で実質賃金をプラスに転じるほどの効果があると見るのは、現時点ではあまりに楽観的に過ぎると言わざるを得ません。
そして、著者が最も注目しているのが、日本銀行による金利政策の行方です。
先日、植田総裁がマイナス金利解除を発表したことは記憶に新しいイベントでしたが、既に市場では年内の追加利上げに備えた動きが活発化しています。
現在のところ、短期プライムレートの上昇はないため影響は限定的ですが、今後の追加利上げによっては、住宅ローンの変動金利や企業の運転資金融資の金利を直撃することも危惧されます。
そうなれば、せっかく賃上げがあっても住宅ローン返済が増えてむしろ消費は冷え込む可能性もありますし、来年以降の賃上げ機運への影響は必至でしょう。
当面の行方は、日本銀行の金利政策の采配にかかっている、といっても過言ではないかもしれません。
岸田政権は、今年の春闘による賃上げ効果に加えて、6月よりスタートする定額減税によって24年内の所得増加を実現するとしています。
しかし、それであれば春闘の結果、そして中小企業の賃上げの実績が整う前に、日本銀行がマイナス金利解除をしたことには大いに疑問です。
また、直近でも「子ども・子育て支援金制度」など社会保険料負担の増加や、インボイス制度導入による実質的な消費増税の余波もあり、いわばアクセルとブレーキを同時に踏み込むような政策のチグハグさは否めません。
政府内でも足並みが不揃いであることが垣間見えますが、まずは春闘、そしてそれに続く中小企業の賃上げ判断を注視していきたいと思います。
Real Media メールマガジン登録完了
不定期(月1回程度)にてお役立ち情報のお知らせを
メルマガにてお送りさせていただきます
未来に向けての資産運用にご活用くださいませ。