資産運用
不動産投資の融資相談でときどき寄せられる質問に、「役員貸付金」「役員借入金」に関するものがあります。
ご存じの方も多いかもしれませんが、不動産投資の税金は、総合課税・超過累進課税という2つの厳しい制度によって、特に本業の所得が大きい方や、不動産投資で大きな利益が出ている方ほど、極端に税金が高くなるというジレンマを抱えています。
その対策の一つに、不動産投資(不動産賃貸事業)を法人化して、個人に対する所得税・住民税の高税率を逃れ、比較的税率の低い法人税に寄せるといった方法があります。
ところが、法人化した後、何らかの理由で、個人または法人に現金が不足した場合、「個人→法人」または「法人→個人」にお金を貸し付けることが実務ではままあり、これら貸し付けたお金を「役員貸付金」「役員借入金」と呼びます。
不動産投資家の中には、法人は節税のために作ったもので実質的にはどちらも自分の資産であるとして、個人⇔法人間の貸し借りを軽視する方は少なくありません。
しかし、実は「役員貸付金」「役員借入金」の有無は、金融機関の融資審査において、非常に厳しく評価される(審査に悪影響がある)こともある点は、あまり知られていないように感じています。
本稿では、「役員貸付金」「役員借入金」を少し掘り下げたうえで、金融機関からの融資審査でどのように解釈されてしまう危険があるのかについて、分かりやすく説明していきます。
本稿で是非とも覚えていただきたいのは、金融機関の融資審査において、「役員借入金はあまり問題視されないが、役員貸付金は非常に問題視される」という点です。
どちらも、個人⇔法人間の貸し借りのはずですが、この違いはどこから生じるのでしょうか?
順番にご説明していきましょう。
まず、「役員借入金」とは、法人に対して役員(投資家自身)が貸し付けているお金のことです。
前述したような不動産投資の節税のために設立した法人の場合、中小企業向けの税制優遇や各種の特例措置(交際費課税の特例等)の適用条件を満たすため、法人設立時に必要以上に資本金を入れないパターンが多いのですが、新規で収益物件を購入する際や大規模修繕などの支払時、法人の保有する現金預金が不足することがあります。
そうした際、増資ではなく「役員借入金」を活用することで、中小企業向けの各種優遇措置の適用条件を逸脱せず、必要な現金を法人に移転することが可能となるため使い勝手が良いのです。
また、万一、法人の資金繰りが上手くいかなくなったとしても、金融機関への返済よりも、役員(投資家自身)への返済を優先することは通常考えられないため、金融機関にとっても特段のリスク要因とはなりません。
こうした事情から、金融機関の融資審査においても、「役員借入金」は実質的に自己資本の一部であると解釈したり、内容を精査したうえでそれに準ずる評価に収めてくれたりするケースが多いようです。(もちろん、金融機関によっては一定のリスク評価をする可能性もありますが)
但し、「役員借入金」が極端に大きすぎて貸借対照表(B/S)が債務超過状態になってしまうと話は別です。
一般的に債務超過へのマイナス評価は大きいため、B/Sの状況には注意することは怠らないようにしましょう。
もう1つの、「役員貸付金」とは、法人が役員(投資家自身)に対して貸し付けているお金のことです。
役員貸付金の発生要因は多岐に渡りますが、たとえば「役員の生活費等の補填」「役員の経営する別事業または別法人の運転資金への充当」などです。
言わずもがな、本来、役員の生活費は役員報酬等によって賄われるものですし、別事業・別法人の運転資金は別で調達すべきもの。
金融機関としても、融資の大前提は「融資したお金は、融資目的に沿って使用されること」であり、他の目的、ましてや役員の生活費や別事業・別法人の運転資金に回されることなどは、絶対にあってはならないわけです。
また、「役員貸付金」が生活資金で消費されたり、別事業・別法人で使われたりした場合、法人が役員から貸付金を回収できず、最終的には法人から金融機関への返済も滞るリスクに繋がりかねず、「役員借入金」とは大きく性質が違うといえるでしょう。
こうした事情から、金融機関は「役員貸付金」に対して非常に警戒し、厳しく評価をするというわけです。
実際の影響度合いは金融機関や案件によっても異なりますが、貸借対照表(B/S)で資産計上された「役員貸付金」については、その全額を資産から除外して再計算されるケースが多いようです。(「役員貸付金」は、回収不可能な不良資産として扱われます)
また、金融機関によっては、今回融資したお金も、役員個人や別事業・別法人に流用されるリスクを重く受け止め、これまでの「役員貸付金」の理由や返済計画の詳細を求められたりすることもあるかもしれません。
不動産投資で融資を活用した資産拡大を考えているのであれば、安易に「役員貸付金」を行うべきではないことは、是非とも知識として知っておきましょう。
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