節税
先日、河野太郎デジタル大臣がご自身のSNSで発表された構想が波紋を呼んでいます。
その構想とは、『移行期間を経たうえで年末調整を廃止して、すべての国民に確定申告をしていただきます』というもの。
著者個人としては、年末調整は国民の納税意識を希薄化させる悪制であると考えているため総論賛成ではあるものの、一部のSNSなどでは、「インボイス制度、電子帳簿保存法改正に続いて、国民負担を増やす政策ばかりでいい加減にしろ!」「先に自分たち国会議員が適正に申告してみせろ!」「税務署をパンクさせる気か?」などと大炎上している模様なのです。
果たして、河野デジタル大臣の構想は現実的なことなのでしょうか?
本稿では、年末調整・確定申告の制度をおさらいしつつ、その実現性について著者の見解をご説明していきます。
■年末調整・確定申告のおさらい
まずは、年末調整・確定申告の制度について、簡単におさらいしておきましょう。
日本の税金(所得税)の大原則は、個人に関する収入(所得)を1年単位で集計し、翌年3月15日までに申告することとなっており、この集計・申告の手続きを確定申告と呼びます。
一例として2024年度でいえば、2024年1月1日から同年12月31日までの収入(所得)を集計して、2025年3月15日までに確定申告することが原則となるわけです。
しかし、特例として、特定条件(給与年収2,000万円以下など)を満たす会社員については、勤務先の会社が個人に代わって年末に納税額の概算を計算し、源泉徴収税額との差額を調整することとなっており、この手続きを年末調整と呼びます。
医療費控除や住宅ローン控除(初年度)など年末調整の対象外となる事情がなければ、会社員は年末調整だけで納税手続きが完結することから、実質的に「会社員=年末調整、自営業・フリーランス=確定申告」というパターンが多くなっています。
年末調整を特例として認めてきた理由は諸説ありますが、一般的には「すべての国民が特定時期に確定申告すると税務署がパンクするから」「複雑な税務計算に対する国民負担に配慮したから」などと説明されることが多いようです。
国税庁によると、令和4年度の確定申告者数は約2,295万人しかいないとのことで、実際には大半の国民が確定申告ではなく、年末調整だけで納税手続きを終えていることが伺えます。
<参考>
国税庁『令和4年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について』
https://www.nta.go.jp/information/release/pdf/0023005-053.pdf
また、住民税についても、会社から各会社員の住む自治体に情報を送る仕組みがあるため、年末調整の制度は、所得税・住民税の両方に関して、大半の国民個人の集計・申告の手間を軽減している事実があることは間違いないといえるでしょう。
■たしかにマイナポータル連携は便利な機能ではあるが・・・
では、こうした年末調整の役割を整理したうえで、改めて河野デジタル大臣の構想をみてみましょう。
河野デジタル大臣によると、『マイナンバーカードを使って個人の所得、保険料、所得税、地方税を名寄せして、マイナポータルに表示すると同時に、e-TAX、eL-TAXに自動入力していきます』とのこと。
つまり、マイナンバーカードとマイナポータルの活用による自動化によって、国民や税務署の負担増を抑えることが前提となっていることが伺えます。
以下は、国税庁のホームページに記載されたマイナポータル連携の全体図です。
これによると、「小規模企業共済等掛金控除証明書(iDeCo等)」「生命保険料控除証明書」「寄付金控除証明書」「医療費通知情報」など・・・、そして「給与所得の源泉通知情報」など、現在でも確定申告に必要な情報のかなりの範囲が自動化できることになっています。
【出典】
国税庁ホームページ『マイナポータル連携特設ページ(マイナンバーカードを活用した控除証明書等の自動入力)』より抜粋
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/mynumberinfo/mynapo.htm
しかし、マイナポータル連携は、たしかに使いこなせれば便利ですが、長年FPとして様々な方のご相談を受けてきた著者の率直な感想としては、これを使える方は相当に限定的だろうということです。
まず、大半の会社員・公務員の方は、前述のとおり会社が代行してくれる年末調整で全ての納税手続きが完結することから、そもそも所得税・住民税の制度自体を正確に理解されていません。
従って、マイナポータル連携の機能だけ用意されても、「確定申告に必要な情報はなにか?」「そのうち自分が該当する情報はなにか?」「それらは税金計算でどう処理されるのか?」といった、もっと手前の段階で躓くことになることが容易に想像されるわけです。
また、肝心のe-TAX、eL-TAXの“使い勝手の悪さ”も大きな課題です。
実際にやったことのある方なら分かると思いますが、FPである著者がやっても、その入力手順は相当に分かりにくく、使いにくいUI(ユーザーインターフェイス)となっています。
これは、システム設計者の工夫が足りないというよりも(工夫不足も多分にありますが)、日本の税制が複雑すぎることに根本原因があり、税制を抜本的に見直すことから始めないと、一般の会社員・公務員の方が迷わずに確定申告を完了させることは難しいと思う次第です。
■抜本的な税制見直しや税制教育が先ではないか?
こうした実務面の課題を考えると、今回の河野デジタル大臣の構想は「現実を見ていない机上の空論」と言わざるを得ません。
いまの日本の税制の複雑さでは、会社の経理部門の担当者でさえ処理に慣れるまで時間がかかるはずで、それをすべての国民に求めるのはいかにも無理な話で、政治家自身の裏金問題など感情的な反論を抜きにしても、マイナンバーカードとマイナポータルだけで完結できる話ではないと思うわけです。
とはいえ、冒頭に書いたように、著者個人としては、年末調整を廃止し確定申告に一本化する方針自体は賛成です。
しかし、そのための地ならしとしては、マイナンバーカードやマイナポータルといった小手先の技術ではなく、抜本的な税制見直し(シンプル化)や、義務教育課程等での税制教育が先にあるべきと考える次第です。
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