保険年金
10月31日の厚生労働省の社会保障審議会にて、令和7年度の国民健康保険料の限度額引き上げが決定しました。
ご存じの方も多いかもしれませんが、国民健康保険とは、主に個人事業主やフリーランスの方が加入する健康保険制度の一つです。
原則として地域の自治体(市町村等)が運営しており、多少の地域差はありますが、総じて会社員・公務員の方が加入する協会けんぽや健康保険組合よりも保険内容は手薄で、保険料も割高であることが指摘されています。
そんな国民健康保険料の限度額が、令和7年度よりさらに引き上げとなるというのが、今回の決定事項です。
物価高騰の続くなか、「いいかげんにしてほしい・・・」というのが、多くの加入者の本音ではないでしょうか。
本稿では、今回の国民健康保険料引き上げの内容とその影響について、過去経緯も含めて分かりやすくご説明していきます。
今回の国民健康保険料引き上げの前に、これまでの保険料の推移をご説明しておきましょう。
実は、国民健康保険料の限度額はほぼ毎年、数万円単位の大きな引き上げが行われてきた経緯があります。
以下表は、厚生労働省の公開している平成12年度からの国民健康保険料の限度額の推移です。
【出典】厚生労働省ホームページ
第184回社会保障審議会医療保険部会(ペーパーレス) 資料 「資料1」より抜粋
驚くべきことに、平成12年度には60万円だった限度額が、令和6年度にはなんと106万円まで引き上げられており、その上昇率は2倍に迫ります。
僅か20年あまりで保険料負担が2倍近くなったのでは堪らないでしょうが、こうした方の支えによって、なんとか維持できているのがいまの国民健康保険であることは、最初に認識しておく必要があります。
今回の決定によって、令和7年度の国民健康保険料の限度額は、さらに3万プラスの年額109万円となります。
しかし、引き上げとなるのは「保険料率」ではなく「限度額」であるため、実際に影響を受ける方は限定的です。
具体的にいえば、所得970万円以上の方(単身世帯の場合)、給与所得者であれば、おおよそ年収1,170万円以上の方が影響を受ける対象者となります。
ではなぜ、一部の方に限って国民健康保険料の負担増を強いる方針としたのでしょうか。
この点について、厚生労働省は以下のように説明しています。
<基礎的事項>
・医療保険制度では、保険料負担は、負担能力に応じた公平なものとする必要があるが、受益との関連において、被保険者の納付意欲に与える影響や、円滑な運営を確保する観点から被保険者の保険料負担に一定の限度を設けている。
・高齢化等により医療給付費等が増加する中で、被保険者の所得が十分に伸びない状況において、 保険料負担の上限を引き上げずに、保険料率の引上げにより必要な保険料収入を確保した場合、高所得層の負担は変わらない中で、中間所得層の負担が重くなる。
・保険料負担の上限を引き上げれば、高所得層により多く負担いただくこととなるが、中間所得層の被保険者に配慮した保険料の設定が可能となる。
【出典】厚生労働省ホームページ
第184回社会保障審議会医療保険部会(ペーパーレス) 資料 「資料1」より抜粋
たしかに年間所得970万円の方であれば、一般に高額所得者といえるでしょう。
高額所得者が税金や保険料の負担増加に耐性があることも、一般論としては正しいといえます。
しかし、ほぼ毎年のように限度額を数万円単位で大きく引き上げしてきたこと、積み重なった引き上げ幅は既に2倍近くに達していること、さらには今後も永続的に限度額引き上げが続く可能性が高いことを考えれば、対象となる方の負担増加や不公平感は計り知れません。
現状の制度設計・方針のままでよいのかについて、改めて議論する時期にあるといえると考えられます。
他方、狙い撃ちされた高額所得者の方も、全員が全員これを受け入れているわけではありません。
たとえば、負担軽減の対策として、個人事業主・フリーランスの方が行う「マイクロ法人設立スキーム」は有名です。
これは、事業の全部または一部を自らが設立した法人に移し、法人からの役員報酬を低く抑えることで個人所得を減らし、保険料の低減を図るというものです。
この場合、国民健康保険よりも保険料が低く、内容も充実した健康保険(協会けんぽ等)に加入する形となるため、やり方によっては非常に大きな効果を得られる可能性があります。
もちろん、負担軽減だけを目的とした「マイクロ法人設立スキーム」をお奨めするわけではありませんが、こうしたスキームが多く活用される背景には、高額所得者への過度な負担押し付けがあり、いまの国民健康保険制度に限界が近いことの証左であるともいえます。
いかがでしょうか。
今回の国民健康保険料の限度額引き上げは、一部の高額所得者のみ影響し、大多数の方には影響のない内容です。
しかし、過去そして今後の見通しを考えれば決して楽観視できる状況ではないことも、是非知っておくべきでしょう。
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